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2025/09/26

■ つかう ■ 金ペンでなくても...


万年筆の値上げが止まらない、のは、興味がある方なら耳タコです。

  Pilot製の"カスタムURUSHI"は、初出時の2016年は、高品質で納得のいく価格に、しばらくは入手できずに、待ち状態だったようです。

2016年9月 
デビュー時のPilot Website
¥88,000 + 税

 ごく数年の間に2倍の価格となり、今は165,000円ですか。でも、他の万年筆に比べると、2倍の値上げなら穏やかな方です。

2025年
¥150,000 + 税

 純金が暴騰するのは関知しないのですが、万年筆に必須の素材なのですか。

セーラー万年筆 公式通販サイト

 ...と主張されるのも、昭和の頃から耳タコです。

 「腕時計に」「指輪に」「耳輪に」「首輪に」(カタカナで言えよ,って(;^^?)、「純金は必要か」という議論も、堂々巡りでしょうか、やはり。宝飾品・奢侈品としては、いくら贅沢で高額でも良いと思います。彫金技術なども発達し、経済的にも社会的にも豊かな文明が...。

 それはいいとして、話を「実用的な筆記具」とする場合、20世紀前半までならまだしも、現在の冶金(金属の素材・精錬・加工)技術では、"耐蝕性""弾性変形性"を、"筆記具としての実用性"に応用する程度の範囲ならば、「純金が存在しなければ工業製品として成り立たない」「純金を使用するがゆえに優れた製品である」ということは無いのでは?

 しかも、国産の場合特に、その"仏壇カラー"なデザインといい(私はキライじゃないですが)、ハイエンド高級品がなぜか一様に"仏教","文化芸術"モチーフだったり(私はキライですが)...。使用者のすそ野をあらたに広げる努力は無く、むしろ煙たがられて避けられるような世界では?

 たとえばゲルインクボールペンに「耐蝕性」「しなやかさ」「所有の満足感」「漆工芸」などと蘊蓄を語り、『鳳凰』『四神』『七福神』『曼荼羅』なんて名前を付け、価格を100倍くらいに上げて、高付加価値でメーカーにうまみのある製品で統一したら...?

 売上がどうなるかは誰でも予想できそう...。

 日本の万年筆も、機械式腕時計と同じく、実用を捨てた宝飾品としての運命をたどりそうです。

 せっかく軽やかな書き心地と独特な構造をもつ無二の筆記具なんだから、小難しい蘊蓄や高価格のまとわりつかない、新しい素材("珍しい金属"を意味しない)や新しい発想で未来を拓くような抜本的なブレイクスルーが、いま現れてくれればいいなと思います。

カクノ; 善戦中...。
ペン先が細すぎ追従性が悪く、
胴軸が華奢で低品質なので、
児童用の外観をしてはいるのだが、
力加減を知らない児童には使えないかも

ペリカーノ; 意気盛ん。
高剛性で高耐久性。持ちやすく親しみやすい。
義務教育の場で大量に使われるからだろうけど。

2025/07/08

■ まなぶ ■ 訂正しているんだけど...プラチナ万年筆ウェブサイト

2025/6/16 
プラチナ万年筆ウェブサイト
左; ギフトコーナー / 右; センチュリー#3776
※ ギフトの金額が旧態依然...

別に、プラチナ万年筆"アンチ"じゃないです、本当に。

 🔗 6/26やそれ以前にいろいろと批判してごめんなさい。でも、どうも感覚が合わないこと(🔗6/16)と、その根拠を示しているので、どうぞ許してください。

 その6/16時点の、同社ウェブサイトに、その時点でやっぱりイマイチな表示が、トップ画像。まったく同じ製品(センチュリー#3776ブルゴーニュ)です。価格を比べてみると...;



 青枠で囲むと;


 同一商品なんだから、金額の表記を直そうよ。値上げして以降ウェブサイトの表記は、矛盾したまま、1カ月放置されちゃった...。

 昨日7/7、あ、直っていますね。


 でも、今回も、""表記をつけてはいかが?  上のプレジデントは"38,500(税込)"で、下の#3776センチュリーは"30,800(税込)"。ウェブサイトのコード入力中にエスケープ・シークェンス処理されてしまったんですか。金額訂正後の今回もぶっきらぼうに""ナシですね...。

 う~ん、このメーカー...。キミに自社商品への愛情はありますか...。

2025/06/26

■ まなぶ ■ 万年筆のネーミング 3:プラチナ-3


まだ続ける気? の、このシリーズ。どれも「ステキだ」という個人的感想よりも、「なんだか斜に構えた見方」で、自らわざわざ気が重い話を続けて...ごめんなさい!このくらいにしておきます。

 十数年も前の話ですが、あの"#3776 シャルトルブルー"(🔗6/22)に引き続いて、1,2年経た頃に、"#3776 ブルゴーニュ"が新発売されました。きれいに透き通る赤い軸です。

 赤いペンは、透き通った青い軸のシャルトルブルーのようには、自分では惹かれないです。そもそも軸の色で万年筆を買いたくなることは無いです。むしろ黒以外は、書く際に気が散るので敬遠するたちです。

 ここでも、プラチナ社は、その色を、「赤」と表現せず、「ブルゴーニュ」と表現。

「赤」より、たしかに少し暗みがかった「紅」「赤紫」...、いやそれじゃぁ商品として売れそうにもないので、シャレたワインの表現でしょうか。んじゃ、「ワインレッド」じゃだめなのかな。やはり月並みですか。

 Wikipediaのチャートを見ると、たしかに、色の名前として「ワインレッド」「バーガンディ("ブルゴーニュ"の英語読み)」「ボルドー」は、違う色としてJIS規格が定められています。

Wikipedia

 でも、「この万年筆の軸の色はむしろJIS慣用色名"ワインレッド"に近いんじゃ?」なんて、そんなこたぁどうでもいい話で、 要はイメージが大事だということでしょうか。

 また、おひざ元のフランスのアマゾンで見てみましょう。関係ないですが、送り先は隣国ドイツにしました。(コレ設定しないと"国内の住所コードを入れろ"と言われて次に進めないので)

Amazon Fr

 やはり"#3776 シャルトルブルー"と同じく、商品名は英語で"3776 Century Gold Trim Bourgogne"で、その色名は、"rouge(赤)"と表記されています(青い下線は私が引きました.
トップ画像も)。

 う~ん、やはりもやもやしてきました...。(← もう付き合いきれないでしょうから、個人的なこころの病だと思ってください)

 さてところで話は変わりますが、ワイングラスをチョっと見てみましょう。いまどきは、どこの百均ショップでも、じゅうぶん高品質でステキなワイングラスが220円もあれば購入できます。が、あえてココで見栄を張って(?)、リーデル社製を見てみましょう。

Riedel Website

 ↑の左がブルゴーニュ型ワイングラス、右がボルドー型ワイングラスです。これはリーデル社の製品に限った話ではなく、ワインの特質からくる形状の違いで、世界中で共有する型式の分類です。...左のブルゴーニュタイプを見るとつい甘い香りが漂ってきたり、右のボルドータイプを見ただけで渋みでつい両頬がキュっと痛くなってくるような人は、いいかげん、酔いを醒まして、本心に立ち返り、人生の正しい道を歩んだらどうですか!? (...これを"ブーメラン発言"と言うとか...。)

 ここで、プラチナ万年筆センチュリー#3776ブルゴーニュの、販促画像を見てみましょう;


 ステキなイメージですね。おや...


 グラスが、こうで...


 うっ......

 思わず目をそむけてしまった...、のが、発売当初の十数年前...。

 プラチナ万年筆センチュリー#3776"ブルゴーニュ"の背景画像は、"ボルドー"グラス...。

 ム、ムリです、もう...。まるで、漆塗りの汁椀に、抹茶と砂糖とミルクを入れてスプーンでかき混ぜて飲む人がニッポン文化を語るような違和感があります(どういう譬えだ!?)。

 "シャルトルブルー"や"ブルゴーニュ"などと言ったネーミング...。いずれ破綻をきたしそう 波乱が立ちそうなのは、自分的には明らかでしたが...。

 プラチナ社は、インクのラインナップは実直で良心的だと思うのですが、やはり50年近くも前の高校時代から、その万年筆に付着させたイメージに、あの、その...。うぅ、ここでも、またしても...(🔗6/16)。

 万年筆のネーミングの悲惨さ壮大さと言ったらもう、プラチナだけの問題、国産3社の勘違いなセンス、というわけじゃなく、たとえばリーディングカンパニーであるモンブラン社製でも、そのトップブランドの#149や#146のさらに上に、富裕層やコレクター向けの特別限定版として、「パトロンシリーズ」「女優シリーズ」「作家シリーズ」などという、ごてごてと  目玉の飛び出るような 驚くほど壮麗な貴金属宝飾を施したシリーズがあり、なかなか魑魅魍魎な世界のようすです。

 でも、メーカー側で付けてよこした名前なんかにいちいち拘泥せずに、自分の労働の対価として得たお金のいくばくかをさき、手に入れ、日々実用に供し、手入れをし、長年愛用している、という人こそ、やはり、色だ形だ値段だのにかかわらず、人類としては、もっとも天国に近い人だと思います。私などは、今月だけで5回もつべこべボヤいていますので、地獄の沼から蜘蛛の糸にすがって、極楽の蓮の池の底の水の輝きを永遠に眺めている立場だな、とボヤけばボヤくほど、自分の情けなさを実感するありさまです。

2025/06/22

■ まなぶ ■ 万年筆のネーミング-3:プラチナ-2


タイトルの枝番号が膨らんですみません。ま、気になさらずに。

 先日書いたプラチナ万年筆 センチュリー#3776 シャルトルブルーですが...(🔗6/16)。

 フランス、シャルトルにあるノートルダム大聖堂(カトリック教会)のステンドグラスの色を想起させるイメージで売り出しているのでした。

 おひざ元フランスのamazonで購入するフリをしてみましょう。どういう表示で売り出しているのかな。関係ないけど送り先はイスラエルにしてみました...。


 商品名は英語で"#3776 Century Gold Trim Chartres Blue"(画像右側の水色の下線)。

 色は..."ダークブルー;Bleu foncé"なんですね...。(画像右下の青い下線; いずれも下線は私が引いたものです。以下同じ)。

 ...なにか釈然としないです。

 キリスト教とは袂を分かつユダヤ教...。ヘブライ語話者すなわちイスラエル人がamazonで購入を検討しているフリをして調べてみましょう。


 色名は "ブルーチャート"...紺碧に似た海の青でしょうか。もちろんカトリック教会を連想させることなど絶対におくびにも出しませんよね。

 イスラム教が国教となっているアラブ首長国連邦の一都市、世界の富豪が集まるドバイでamazonからプラチナ万年筆#3776シャルトルブルーのお買い物をしましょう。


 商品名には、ごく一般的な普通名詞のみ列挙して、色は"ダークブルー"の表示。もちろんカトリック教会を連想させることなど絶対におくびにも...。

 日本で「シャルトルブルー」として売り出したんですが、フランス語、ヘブライ語、アラビア語とも、色の表示に変更があった、ということでしょうか。変更を加えたのはメーカー自ら? だとしたら、なぜネーミングと商品イメージを貫こうとしない?  それとも世界各地の現地のリテーラーたちがあえて変更? "こんなネーミングで売れるわけないだろう"との配慮? いずれにしても、日本でしか使えないようなイメージ商法なんでしょうか。

 所有していて、ネーミングのイメージの美しさや満足感よりも、気恥ずかしさ哀しさがチョっとだけ勝るような気が、そこはかとなく、漂うんです。

2025/06/16

■ まなぶ ■ 万年筆のネーミング-3:プラチナ-1


「"万年筆を製造する日本の三大メーカーは、パイロット、セーラー、プラチナでしょうか。(🔗6/11)"と書いたんだったら...、じゃ、残りの1社プラチナの話はどうなるの。」ですって? ... そ、そういやそうですね。

 プラチナ万年筆の基幹ラインナップは、"センチュリー#3776"と"プレジデント"でしょう。

 かつて"プレジデント"がより高級、という雰囲気でした。今はすっかり影が薄くなって...。"センチュリー#3776"出現よりだいぶ前に試筆した際には、その書き心地の、脳天に響く堅さで、怖気づきました...。

 "センチュリー #3776"という名前の由来を、私は詳しくは知らないのですが、数字は、富士山の標高を取ったものだそうです。"プラチナ #3776"という万年筆はもう50年も前の1970年代後半からあるのは、高校生の頃から知っていましたが、その時点で、そのネーミングは、あきらかに、その時点からさらに数十年も歴史の古いドイツ製万年筆"モンブラン"の旗艦モデル#149のペン先刻印"4810"が、ヨーロッパアルプスの"モンブラン山"の標高を表している、というエピソード をパクった にインスパイアされたものだということは、周知の事実でした。


 この時点、つまり、半世紀ほど前の高校生の時点で、プラチナ万年筆に対する、自分のなかでのブランドイメージは、ほぼ固定されてしまいました...。う、う~ん、つらい...。

 ただ、メーカー側の、ネーミングの意図は、「日本の最高峰...の、ものづくりをめざした」だったのかもしれません。私の勝手な想像ですが。だとすれば、その心意気や善し。誇らしい日本の製品を!と、応援したい気になります。

 さて、大地震の年(2011年)のあたりだったと思いますが、プラチナ#3776に、ステキな色の「センチュリー #3776 シャルトルブルー」が発売されました。

現在のメーカーウェブサイト
デビュー当時は、型番PNB-10000&本体価格¥10,000

 透明感のある青い軸。大いに惹かれた色です。

 でも、また、リクツっぽいわだかまりが、心の棘となってひっかかって...。

 1) ニッポンの最高峰を象徴する誇らしげな「#3776」という名を付けておきながら、そのサブネームがフランスのシャルトルにあるノートルダム大聖堂のステンドグラスなんですか...。う~ん...。


 2) 名前が、カトリック教会に由来するのですか...。

 青い透明プラスチックのペンを取り出して、「これは、フランスのカトリック教会の世界遺産シャルトルのノートルダム大聖堂のステンドグラスのブルーなのです、どうです、そう見えるでしょう、どうです...」って言われても...、う~、そ、そう言われると、なるほど、そう思えてきました。う~ん美しい...。
...これを「イメージ商法」を越えて「催眠商法」というのでしょうか。

 今、宗教に立ち入るつもりはないのですが、「シャルトルカテドラルのファサドの、荘厳で敬虔な、こころに訴えかける色なのだ!」と言われたら、カトリックの人だと、誇らしげに購入したい気になるでしょうか、それともチョっと気恥ずかしいでしょうか...。また、カトリック以外のヒト、ムスリムの人、仏教の人、プロテスタントの人とか牧師さんたちは、買ったり持ったり使ったりするのに多少の心のひっかかりは無いものなのかな...。お寺の住職で万年筆ファンの方を知っていますが、彼の気持ちは?...余計なお世話ですネ(🔗2023/12/31)。

■ 1), 2) の2点...。このメーカーの人たちにとって、"デリカシー"、"ポリシー"という単語って、...。

 「センチュリー#3776 "青" 」じゃ、だめ? ...やっぱり売れなそうな色の名前か、それじゃ。いまどきはやはり"イメージ"を付加して価値を高めて売らなくちゃネ。

 「そんなことはどうでもいいとして、トップ画像は何なんだ!? つべこべ言いながら結局買ったんじゃないの?」と言われたら...、そ、その通りです。色に惹かれて、催眠状態で...。と言っても、中古で。2020年頃に、知人から「使ってないから半額でいかが?」と言われ、衝動的に即座に5,000円出した気がします...。"太字"なのですが、軸もペン先もかなり細く、華奢なペンです。

 プラチナセンチュリー#3776について、もっと大きな心の棘となって痛くひっかかった問題は、別なあの色の...

     ...また倍以上も長くなるので、今日はここまでにします...← 続ける気なのかっ!?

2025/06/12

■ まなぶ ■ 万年筆のネーミング-2:セーラー

セーラー プロフィットカジュアル

 セーラー社製の万年筆のラインナップは、これまた把握するにはなかなか複雑です。

 金ペンを採用したメインのラインナップを、単純化すれば、"プロフィット"シリーズと"プロフェッショナルギア"シリーズの2本立てでしょうか。

 両系統の命名の違いは、軸の形状によるようで、前者が、"葉巻"みたいな、両端形状が丸い"バランス型"(↑トップ画像), 後者は、"葉巻の両端を切り落としたような"ベスト型"↓、というカテゴライズのようです。

左: セーラー プロフェッショナルギアKOP
右: パイロット カスタム漆

 事情に詳しくない末端消費者の私が思うのは、「なぜ"profit"と"professional gear"? 」「販売の骨格をなす2系統の、両概念にどのようなコントラストがあるんだろう?」...

 片や"利益→成功"、片や"専門家向け→機能性と耐久性"という拡大解釈に出るものなのかな。概念ペアが「対照」を成していない気がして、わだかまりがあります...などというのは小うるさいかってな思い込みですが。

 セーラーの万年筆はどれも、個人の感覚としては、書き味が、サリサリとした気持ち良いかろやかな抵抗感があり、紙に書き綴っている心地よさがあります。

 対して、昨日のパイロット製の万年筆が、ヌルヌルとインキの潤沢さを味わいながらペン先を紙から上げずに書き続けられる心地よさを感じます。いずれも独特なたのしさだと思います。

 万年筆は、社会的実用性と言う点では、(もちろん個人的な生活上での話ですが、)もはや使い物にならないと言ってよいです。もっぱら自分の楽しみとして毎日使うだけですので、その用途には、パイロット製の特性と好みのベクトルが合います。...以上は、純粋に個人的な問題です。

 セーラー製は、他方で、印象としては、上で述べた「純粋に個人的楽しみ」という点に全力を傾注したデザインの製造期間限定品が多いです。その点は"万年筆の社会的実用性"という私見と類似しているのですが、i) その発売頻度が高く、ii) 価格も高く、また、iii) 最大の難点は、自分で持つにはあまりにも気恥ずかしくなるネーミングである点、遠巻きに眺めて楽しむにとどめている理由です。

セーラー「四季織-山水シリーズ」

"プラスチック製の工業製品と『イメージ』とを抱き合わせにして『高付加価値』商品として販売する"という、この業界の体質が、しかし、消費者には大いにウケている点、私は、称賛と批判の彼岸にいて眺めることにしています。

左「アフタヌーンティー・シリーズ」
右「カクテル・シリーズ」

2025/06/11

■ まなぶ ■ 万年筆のネーミング-1:パイロット


 毎日使う万年筆。慣れているから違和感はないにせよ、考えてみるとそのネーミングは...。

■ 身の周りの商品で、もっとも奇抜なネーミングは、医薬品です。その破壊力で他を圧倒しています。

「飲めばじきに(まもなく)治る」→"ジキニン"、「ス~っと治る」→"ストナ"、「脳(頭痛)を鎮める」→"ノーシン"、「風邪(Kaze)に逆らいスペルを逆読みして」→"イーザック"、「後が楽になるようまず飲もう」→"コーラック"、「去らせる、鈍痛を」→"サリドン"、「よく出る(ナニが?...って、その...)」→"ヨーデル"、「サラリと出る」→"サラリン"、「Through Ben」→"ソルベン"...

 あいた口がふさがりません...

 莫大なカネを投入してデキた製品がこの名前なのか...。製薬会社と言えば、最も知能が優れた人たちの集団の一角...の、その感性って...、場末の町工場のおっさんが作った怪しい発明品みたいなブッ飛んだセンスなんですねぇ。やはり一般人とははるか遠い隔たりを感じます。

 ところで、万年筆を製造する日本の三大メーカーは、パイロット、セーラー、プラチナでしょうか。前2者は、"水先案内人"と"水兵"なんですネ。

 両者とも、創業時の社名命名には興味深い由来がありますので、医薬品名ほど消費者をナメ切った 軽薄な 軽やかな命名ではないのですが、その製品のネーミングセンスは、なかなかのものがありそうです。

 うち、比較的まともなパイロットは、さすが、基本的にわかりやすいネーミングなんですが...。

 社を象徴する代表的な高級ラインが、"カスタム74", "カスタム742", "カスタム743", "カスタム845", "カスタムUrushi"で、いずれもペン先には金(gold)を用いています。

 語の一般的な意味で、"カスタムcustom"という単語は、"特別あつらえの", "オーダーメイドの"という意味ですから、工業製品にあっては、"大量生産"とは対義語です。

 さて、この会社は、万年筆メーカーとしては日本では最大、世界でも有数です。ゆえに、もちろん"カスタム"シリーズは、オーダーメイド品ではなく、大量生産品です。

 「あなたのためだけに特別におつくりしました」と称して差し出された大量生産品...。

 ただ、ペン種(ペン先の種類)が多く、「使いたい人ごとに個別にあつらえている」とは言えなくても、消費者の要望を取り入れた上で、高性能な製品を比較的求めやすい価格で大量生産している点、尊敬しています。パイロットのファンであるゆえんです。(でも"カスタム"はやっぱりさすがに違和感...)

 "74"とは、会社創立74周年を機にフルモデルチェンジした製品。

 "742"は74周年時に2万円で、"743"は同じく3万円で売り出したものです。ちなみに"74"は1万円、その後に発売された"845"は5万円でした。

 この価格は、つい昨年(2024年=創業106年)まで長く続いたのですが、現在(2025年6月)、例えば"カスタム845"は110,000円(税込)です。パイロットを責めるわけにはいかないでしょう。寒い国の領土欲に満ちた独裁者が乗り出した戦争と、かつては民主主義を誇っていた国の金銭欲に駆られた新独裁者が関税というインネンをつけて世界中を恐喝しているせいで、"暴騰"、を越えて、"沸騰"している純金相場のおかげです。

 「インフレ」「購買力平価」「世界情勢の変動」という現象を知らないかつての平和な大企業在住の方によるネーミングだったのかもしれません。

 "カスタム743"を私なりに翻訳すると、"大量生産74年型3万円版(ただし価格は44,000円)"...。製品名としてはすばらしくわかりやすくなりました!...え?、とてもじゃないが買いたい気持ちにさせる名前じゃないだろうって?...やはり"ヨーデル","ソルベン"並みの、心をわしづかみにする破壊力が必要ですよね。

2024/06/25

■ なおす - 万年筆修理


ペリカン M1000という万年筆を、洗浄しようとしてペン先ユニットを回して外し、洗浄後、元に戻したところ、ペン芯と金ペン先が離れてしまいました。M800ではふつうにデキていたのですが、M1000はペン先ユニットが回りづらく(硬くて)、今回初めて強引に回したら、この惨事に。

 自分では治さない方がいいと思い、弘前の平山万年堂に駆け込みました。

M1000ペン先ユニット参考画像

 ここでは、何度か手持ちのさまざまな万年筆を手直ししてもらっています。

 間口一間半の、初めて訪ねてくる人なら見逃してしまいそうなお店ですが、創業は大正2年、111年続いているとのことです。


 いつも父子2代でお店に。「子」といっても私と同年代ですので、「父」はかなりのおじいさんです、が、はつらつとした楽しいおしゃべりをしてくれます。彼は、50年前に私が下宿して世話になったお寺(🔗→ 2023/06/01)の先代住職と同年配で、その先代住職は、良い顧客だったようです。

 先代住職が、しょっちゅう立ち寄ってはしゃべっていく、その時にタバコを吸う、そのタバコの灰をいつまでも落とさないので、タバコに火がついたまま灰が長~く伸びて気が気ではない話を、私が行く都度、思い出しては話してくれます。

 他方、そのお寺の、現在の住職(私の従兄ですが)は、父にあたる、亡き先代住職が、平山万年堂にしょっちゅう立ち寄っては、筆や墨を、ツケ(後払い)で持ってくる、アトからお寺に請求や取り立てが来て、えっ、と思うこともしょっちゅうだった...とのこと。先代住職は、たしかに、ユーモアに満ちた人がらだったのですが、黒々とした高級そうな墨による達者な手は、まさに達人でした。

 ...などと思い出しながら、今日は、このお寺に一言挨拶をして、クルマを40分ほど駐車させてもらい、徒歩にて、弘前市内の繁華街にある平山万年堂に出向き、ペリカンM1000を持ち込みました。

 おじいさんは見てすぐ「今日はペリカンか、ちょっと待って」と選手交代。私と同世代の現社長?がペンを手に取って、少し奥に引っ込んで、すぐ直して持ってきました。

 お互い試筆してみて、今回は簡単にうまく治ったようです。


 M1000の書き味は、同社のM800以下の他の万年筆や、他社の万年筆では、まったく得られないかけがえのない書き味です。何本も欲しいくらいですが、今の価格は私が手を出せる次元ではなくなってしまいました...。平山万年堂に持ち込んで、事なきを得ました。

 治してもらう時間3分。おしゃべりが15分でした...。

 今後は、M1000は、インク吸引時も水洗い時も、おとなしく回転吸引機構のみを使うことにします...。

2024/01/23

■ まなぶ - インクの消費量 - パイロット 顔料インク 『強色』


「また手首が痛くなってきたんだ...」

「...って、まさか、また、ド・ケルヴァン(狭窄性腱鞘炎)とか、ばね指(靱帯性腱鞘炎)とかのこと?」

「うん...(泣)」

「今度は、何に書きまくったのさ?」

「古い有料の『地域電話帳』。捨てようと思ったら、万年筆にはすばらしく紙質が良くて、ついそれ1冊使っちゃって...」

「おばかだなぁ...また手術しなきゃだめになっちゃうよ!わかってたんでしょ!万年筆だなんて、仕事でもまともな社会生活でも、何の必要でもないんでしょ?」

「う、うん...。万年筆は、今どきもう実用には使えないし...。」

「ボールペンや鉛筆はまだ実用品だけど、キミって他の筆記具も使ってるんでしょ、このパソコンの時代に。それって、まるっきりただのお遊びなんでしょ? 」

「う...。い、いやっ、つけペンなら、お役所や税理士さんに出す文書やハガキや手紙には、ちゃんと実用...」

「いいから、しばらくおとなしく手を引っ込めて本でも読んでなさい!」

「はぁい...。でも、昨日で英単語集3周目を終えてワカったこともあったよ! 今使っているパイロットの顔料万年筆インク『強色』さ、英文25文ずつ毎日書いていたら、4,5日で1回インクを1cc補給するけど、こないだから鉛筆(Hi-Uni 10B)をヤメて(1/15ご参照)、万年筆だけで書いていたら、25文×4日で1本使い切ってたのが、1日に100文書いたら、ぴったりカートリッジを1本ちょうど使い切るから、つまりこういうことだよ (cf. 1/15)↓;

※ 『Pilot 強色』はインクカートリッジ1本


※ 傍記価格は1本あたり税抜価格。『Pilot 強色』は1瓶(30ml)の価格。

 ...っていうことだよ。『強色』は、太字で使う際のインクだけの値段だけど、コストパフォーマンスは、あれだけ寿命が短いとボヤいた太字ボールペン(2023/12/14)にすら及ばないんだね。しかも何万円もする万年筆本体は含まないのにね。これじゃぁ実用のためには使い続けられないね。趣味やお遊びなら...、う~ん、だったら、Hi-Uni 10Bの方が楽しいかなぁ。でもたまには万年筆でのびのびとさぁ...」

「...ふう、ぼくにも今つくづくワカったことがあるよ。」

「え? 何がワカったの?」

「キミにつける薬は、ないってこと...」

2024/01/15

まなぶ - 三菱鉛筆 Hi-Uni 10B の6本を使い切って


 三菱鉛筆 Hi-Uni 「10B」の6本を、ひとまず使い切りました。

 使ったのは、2023年11月1日の新品開封から2024年1月14日まで。

 11/1-11/21の21日間、12/1-12/21の21日間、1/1-1/14の14日間、毎日英文を50文ずつ書きました(1/13&1/14のみ100文)。毎日1時間足らず。この間の合計で2,900文、単語数にして40,880語です。6本合計の値ですので、1本あたりにすると、483文、6,813語です。

 1か月前の2023/12/14の記事に書いた通り、7月から9月まで、同様に使った 三菱鉛筆 Hi-Uni 「2B」は、同じく1本あたり、1,100文、17,380語でした。

 また、従来型高粘度油性ボールペンのパイロット レックスグリップ1.6mm(極太)は、360文、5,700語で1本を使い切りました。通常の、0.5mmや0.7mmの細字なら、もっと長寿だと思います(が、「欧米文を書く」場合には個人的に好みではありません)。

 いずれも、同じ単語集を使っています。

 以上の「1本あたり書ける英単語数」の値を可視化すると;



 油性ボールペンも鉛筆も、一般的に言って、それぞれ独自の存在価値があります。他方で、私が英単語を書く、というごく狭い状況では、「油性ボールペン」と「Hi-Uni 10B」は、筆記量にそう違いはないけれど、まるで別世界です。

 鉛筆の芯濃度「10B」は、特殊な体験でした。以下に感想を;

 良い点として、

1) 「軸を寝かせて(←ボールペンにはムリ)」「どんな粗悪な紙でも(←万年筆にはムリ)」「力を入れずに弱い筆圧で(←鉛筆HBにはムリ)」という条件(🔗2023/6/26ご参照)を、6月のあのときに考えて予想した通り、まさにピンポイントでドンピシャと合いました。一種の理想の筆記具です。

2) 濃く、速く、筆跡も筆圧も文字サイズもたいへんコントロールしやすく、紙の上を舞うような軽やかな書き味です。

 劣った点として;

1) 芯が極端に柔らかいです。使い始める前にまず、電動や手動回転式の鉛筆削り機では、芯が、回すそばから粉々に崩壊して、永遠に削れません。ポケットシャープナーかナイフだけでしか削れません。

2) ほんの少しの筆圧で、いや、紙に少し触れただけで、芯が、「折れる」のではなく「砕ける・崩壊する」。文字を書き続けるには、ちょっと熟練の必要があります。そもそも「10B」は、「画材」であって「筆記具ではない」とわかる瞬間です。

3) 書き始めると、一瞬で芯が減ります。1文(16単語)ほど書くと、もう先端が丸いです。削りたいです。私は、後半は、3文を書くごとに、別な鉛筆を使いました。

 三菱鉛筆 Hi-Uni 10Bの6本を使った2か月半の、「良い点」と「劣った点」をまとめると;

 削っていった鉛筆の後半は、手で持てないほど短いので、ステッドラーの補助軸を使いました(🔗2023/9/26ご参照)が、3文を書くごとに、つまり3分おきに補助軸を付け替えます。この補助軸の使い心地もまた夢のようにすばらしく、自重だけで筆圧ゼロで書き進み、私の手は紙に筆記している感覚がなく、宙を舞っている錯覚に陥ります。また、6本を20分程度で使い切るので、毎日1時間弱の間、6本まとめて削るタイミングが3回程度必要でした。ただ、削るのは、シャープナーを1回転させるだけで、1秒で、薄くシャープな削りカスがシュっと舞い上がって、実に快感です(🔗2023/12/30ご参照)。「道具を使っている」感じを堪能しました。

つまり、自宅以外では使えないほど手間なのは明らか。「10Bの芯」「ステッドラーの補助軸」「自分で砥石を使って猛烈にシャープに刃を砥いだポケットシャープナー」と、極度にこだわった道具立て...。真冬の夜明け前の1時間...。現実を離れた世界へと遊離しました。「君もやってごらん」などとは口が裂けても言えないかも...。

 Hi-Uniの、2Bと10Bを使ったのですが、次は、その中庸を行くことを期待して、6Bを使います。実はもう使い始めています。思った通り、濃く、軽く、それでいて減りは抑えられるようです。三菱鉛筆Hi-Uniと、トンボ鉛筆Monoの両方を試しているところです。違いはあります。が、いずれもとてもよいです、鉛筆の濃度のうちでは、いや、すべての筆記具に勝って!

2024/01/10

■ なおす - 万年筆インクの溶解


1/6の続きです。

1/6の画像

 そもそもこの実験(?)の『目的』は、『万年筆インクのうち、顔料と古典を誤って前後して充填し、結果的に万年筆ペン芯内で混合し固着したものを、融溶して洗浄する場合、手近で入手可能な液体のうち、どのようなものが有効か』を調べてみることです。

 混合して固着したインク(1/6の画像)に、トップ画像の通り、以下の表組み合わせで、それぞれ溶液を、約5ccずつ、滴下します。滴下の際は、溶液を滴下する都度、シリンジのバレルとニードルを、水道水で水洗いしています。


 トップ画像では、⑥の水以外の全てが、滴下した瞬間に、固着していたインクが溶液中に均一に拡散したようです。このままひと晩放置します。

図1
 図1は、その24時間後。容器を、静かに傾斜させて、下にたまった溶液はシリンジで吸引して排出したようす。振ったり、拭いたりは、していません。

図2
 図2は、それを正面から撮影。以下のようです;

i) 両端の①(染料+古典)と⑦(染料+顔料)は、いずれも図上部の「液だまり」から全量が流れ去っています。アルカリイオン水でほぼ融溶して排出できたようです。

ii) ②~⑥は、インクが「顔料+古典」という、強固に固着する(凶悪な)組み合わせです。万年筆のペン芯内部でこれが発生することを想定しています。うち、⑥の「水道水のみ」に浸した場合は、上部の液だまりがほとんど融溶していないとわかりました。

iii) ②~⑥のうち、上部の液だまりから、融溶して下に流れ落ちた量が最も多い順に;

③のアルカリイオン水激落ちくん

②の水酸化ナトリウム水溶液

⑤のアタックZero

④のチャーミーMagica

 この時点における、『目的』に対する結論は、

1) ③の「アルカリイオン水激落ちくん」が効くようです。万年筆界隈でささやかれていた通りでした。

2) ④と⑤の、「台所洗剤」と「洗濯用洗剤」は、じゅうぶんに融溶したとはいえないので、これらを用いて万年筆洗剤の代用とする意味は無いと思いました。

3) 比較対照群とした⑥の水道水は、古典インクの色素は流出したものの、液だまりの固着は融溶せず、洗浄効果は無いと言えます。

 このまま翌日まで、室温に放置します。

図3
 図3は、その翌日です。室温でほぼ乾燥していました。これに、水道水を5ccずつ、①~⑦のそれぞれに、シリンジで滴下し、少し振動させて、時間を置かずに、静かに傾けて、画像容器の下方から排出しました(下のラベルシールが濡れて汚れています)。

 昨日以降放置し、今日、水道水を浸潤させる意味は、「すすぎの有用性」の有無を見たいということです。

 すると、液だまりがスッキリきれいになったのは、②の水酸化ナトリウム水溶液でした。③と⑦のアルカリイオン水激落ちくんは、顔料粒子がプラスチック容器に固着しているようです。

 結論です。

『目的』を達するには、今回使った溶液のうち、「水酸化ナトリウム水溶液」がベスト。次いで、「アルカリイオン水激落ちくん」。

ただし、

1) 水酸化ナトリウム水溶液を用いるのは、取り扱いが日常生活から乖離し、難易度が高い。

2) いずれの溶液を使うとしても、じゅうぶんに水道水ですすぎ洗いをする必要がある。

3) 混合したインクが特定の溶液に比較的効果的に融溶することは今回わかったが、実際に万年筆洗浄に使って効果があるのかどうかは、この実験では必ずしも明確ではない。

 今後は、

1) 「万年筆専用洗浄液」がプラチナとパイロットから発売されているので、これを、水酸化ナトリウム水溶液と激落ちくんと比較して確認したいです。

2) 破損しても損害の少ない「カクノ」「プレピー」で、インク固着を再現して、水酸化ナトリウム水溶液と激落ちくんを試してみたいです。

2024/01/06

■ なおす - 万年筆インクを混ぜて...


万年筆のインク2種類ずつを、メスシリンダ内で混ぜ、すぐにプラスチック容器に滴下し、11/1~1/6の2か月間あまり、室温17~18℃、湿度50~70%の環境に放置しました。

 画像左端は「染料+古典」インクを混ぜたもの、画像中央5マスは「顔料+古典」、画像右端は「染料+顔料」です。

 左端の「染料+古典」は、流動性を失っていないのですが、「顔料+古典」「染料+顔料」は、水分が蒸発しきって顔料インクの固形粒子のみが粘着しているようすです。

 これに、画像右の洗剤類を、希釈して滴下し、溶解するのか見てみようかなと思います。

2023/12/31

■ まなぶ - 万年筆を始めた私 - 4

Pilot 742 (S) ...「74」や「743」と、ぱっと見て区別はつかない...。

- 11/10の続き - これまで聞いた複数の方々のステキな体験を合わせて、お一人の方の体験としてまとめてみます(;^^w…
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 さて、初めての金ペン万年筆パイロットのエリートとグランセの2本を買って、自宅に帰ると、クルマを見て、妻が帰宅している他に、娘夫婦が来訪とわかる。娘夫婦には小学生の孫娘がいるが、今日は娘夫婦のみのようすが、車内をさっと見てすぐわかる。孫は部活かピアノのレッスンか...。なごむキャラがいないので、ちょっと緊張感もある...。

 この婿殿は、ここだけの話だが、私は実はなかなかニガテである...。それは、娘をさらっていった男という、嫁に出す父に一般に潜在する感情論もある。私のようなまあふつうのサラリーマンと違って、こちらが畏まってしまう立派な社会的地位の婿殿というコンプレックスもある。ゴルフもシングル2桁でおクルマも輸入車という悔しさもある。しかしこのぶつかるような感情の外殻にあるのが、彼が、娘によると、万年筆100本だか200本だかの一家言ある男だということだ...。私がもう何年も何度も、万年筆を職場でひけらかす人たちに反発を唱えてきたのも、このことがきっと意識下にあったからだと今では自分を分析できる気がする。もちろん、人柄は穏当で上司から信頼され部下に篤く円満な家庭人である事実の前には、私の劣等感は我ながらハッキリくだらないと認識しているので、口に出したりそぶりに出したりはしない点、十分わきまえている。

 イマ買った万年筆は、いったんひっそりクルマの中に置いて、自宅に入る。笑顔で挨拶をかわし、一通りのおしゃべりをする。万年筆などというちっぽけな事は忘れ去って、素直にうれしいひとときだ。

 「ところで、お義父さん、カクノを試されたんですって?」婿殿は屈託なく聞いてくる...。妻のやつが娘に告げ口し、それが婿殿に伝わったに違いない。とっさに妻を見る。妻はいつものようにあっちを見る。娘は笑う。「わが家では***(彼の娘=私の孫の名前)も透明軸のを使っていますので、『お揃いだ』と喜んでいましたよ。今度もって遊びに来るそうですよ。」...小学生の孫が使いこなしているカクノを私はまるで使う能力がなかった。私は小学生以下か...。けれど、その話を聞いてすなおにうれしい!自分が笑顔でいっぱいになるのが、くやしいけれど、わかる。単純な自分。婿殿の、話題の振り方や持って行き方が実にツボを得たウマさがあって、如才ない男だ...。

「どうでしたか? 次に何かステキな輸入品などお考えとかですか?」

「いやとんでもない。カクノと同じパイロットで私などにはじゅうぶんすぎるくらいだと思っているんですよ。」

「じゃ次の金ペンは、74か742で試してみますか。いやでもお義父さんくらいでしたら、グレードの高い743からスタートでもよいかな。でも同じペン先で、漆の軸になった845は、最初に手にしたら一生満足できそうですよ。」

次々と勧めてくれる。あの店員さんみたいだ。「そ、その番号って、何だか、よくわからないんだ。」

「そういう万年筆とか輸入車とか高そうなモノって、名前がホントに番号ばっかりで、マニアックで、ついていけないわよね。...。」と娘がやや私の側に割って入る。まぁその通り、と、私のみならず、婿殿も頷く。

「たしかにそうですよね。パイロットの製品は、基本ラインナップのグレードのヒエラルキーがこんな感じなんですよ。」

表示はすべて税抜き

「なるほど。なんでこんな番号なんだろう。1番、2番っていう名前じゃないんだね。」

「たとえば『742』は、パイロット社創設74周年に発売した2万円バージョンという意味らしいです。」

「創立年ごとに新製品があるのかい。だったら膨大になるじゃないか。」

「現在の基本ラインナップは、『74シリーズ』だけで、他には、8**、9**の番号のものが2,3あるだけです。この基本から、たくさんのバリエーションが派生しているようですよ。それは主に、ペン先の材質や筆記線の太さじゃなくて、軸の装飾です。」

「なるほど、エボナイト製の軸や、蒔絵の装飾軸がたくさん出ているらしいからね。...セーラーやプラチナはどうなんだろう。」

「セーラーは、基本ラインナップが、葉巻をつぶしたような楕円形をしたバランス型『プロフィット』の4階層と、それにぴったり並列して、葉巻の両端をスッパリ切ったみたいなベスト型『プロフェッショナルギア』の2本立てです。基本ラインナップはパイロットより安くて21金を使っていてお得なんですが、軸の装飾が華美な高額高級品がとても多いです。」

「プラチナは、基本的に、チョイ高めが『プレジデント』、一般向けが『センチュリー』の上下2種だけです。これらのペン先首軸を使って、軸の高級バリエーションがとても多く出ています。」

「そうだったのか。カタログなどを一見したたけでは、私たち門外漢には、目がくらんでどれを選べばいいかわからないけど、基本の構造を縦に並べて基準にすると、少しわかりやすいね。あとは、軸に凝らした趣向が、自分の今の好みや財布の状況に合うかということなんだね。」

「たしかに、数字によるネーミングはわかりづらいかもしれませんね。考えてみると、プラチナの『プレジデント』『センチュリー』は、数字じゃないだけに、わかりやすいな。でもお義父さんなら『プレジデント』を手にしても違和感はないけれど、自分はまだまだ全く『プレジデント』な立場じゃないから、そんなことを考え始めると、持つのはちょっと気が引けたりするネーミングです、アハハ。」

プラチナ #3776センチュリー 
左;シャルトルブルー / 右;ブルゴーニュ

「言われてみれば、『センチュリー・シャルトルブルー』の青い透明プラスチック製のペンに、『フランスのカトリック教会の世界遺産シャルトル大聖堂のステンドグラスのブルーです』って言われても、すごい大げさにも聞こえるね。」と私も気づいて笑う。

「プロテスタントの人とか牧師さんたちは、持つのに気が引けちゃいそうだわね。親戚のAさん(お寺の住職)だと、欲しくなってもネーミングを見て買うのヤメちゃうかもね!?」と、娘も、マニアックな話題ではないと気づいて、気楽な冗談を盛り上げる。

「じゃ、『ブルゴーニュ』っていうこの赤い色の方は、ボクら普通の日本人ならちょっとおしゃれな雰囲気を感じるけど、かえって職業的ソムリエの人や、ブルゴーニュワインもボルドーワインもふだんからなじんでいるワインにウルサい人だったら、むしろ買う気が萎えるよね、このペン。」と、ワインにうるさそうな婿殿をチラっと見て、チョっと茶目っ気を出して言ってみる。

情報通の婿殿はサっとかわして「そういえば、この『プラチナ・センチュリー・ブルゴーニュ』が出たとき、ある自称『万年筆マニア』の個人の女性が、出てすぐ買って、自分のウェブサイトで速攻で自慢げに紹介して, “この赤い色は、深~い赤で、レッドというよりボルドーな色をしています” とパッケージを開けた第一印象を述べていました。」

「へぇ、『プラチナ・ブルゴーニュ』の色は『ボルドー』なのか!?」と皆くつろいで笑う。

「そんな、シャルトルだのブルゴーニュだの、あなたたちみたいな深い勘ぐりなんか誰もしないわよ。色がキレイなのに惹かれた日本人に、ついでにそれにチラっと日本人ならそそられるような西洋風なシャレたイメージを乗っけて売ろうっていう、メーカーの売り方戦略なんでしょ」と、妻までおもしろがって評論家として加わる。

「じゃぁさ、次の製品は、金色の軸で『トーダイジ・ゴールド』『ダイブツ・ピカピカ』とか、カクノの透明軸を使って『セイシュ大吟醸・トランスペアレント』とか、おもしろいねぇ、あはは...」と私が図に乗って放言すると、娘の「ダサ...」のつぶやきを合図に、いっきに盛り下がってしまった...。孫だったらウケてくれたのに...。