2025/06/11

■ まなぶ ■ 万年筆のネーミング-1:パイロット


 毎日使う万年筆。慣れているから違和感はないにせよ、考えてみるとそのネーミングは...。

■ 身の周りの商品で、もっとも奇抜なネーミングは、医薬品です。その破壊力で他を圧倒しています。

「飲めばじきに(まもなく)治る」→"ジキニン"、「ス~っと治る」→"ストナ"、「脳(頭痛)を鎮める」→"ノーシン"、「風邪(Kaze)に逆らいスペルを逆読みして」→"イーザック"、「後が楽になるようまず飲もう」→"コーラック"、「去らせる、鈍痛を」→"サリドン"、「よく出る(ナニが?...って、その...)」→"ヨーデル"、「サラリと出る」→"サラリン"、「Through Ben」→"ソルベン"...

 あいた口がふさがりません...

 莫大なカネを投入してデキた製品がこの名前なのか...。製薬会社と言えば、最も知能が優れた人たちの集団の一角...の、その感性って...、場末の町工場のおっさんが作った怪しい発明品みたいなブッ飛んだセンスなんですねぇ。やはり一般人とははるか遠い隔たりを感じます。

 ところで、万年筆を製造する日本の三大メーカーは、パイロット、セーラー、プラチナでしょうか。前2者は、"水先案内人"と"水兵"なんですネ。

 両者とも、創業時の社名命名には興味深い由来がありますので、医薬品名ほど消費者をナメ切った 軽薄な 軽やかな命名ではないのですが、その製品のネーミングセンスは、なかなかのものがありそうです。

 うち、比較的まともなパイロットは、さすが、基本的にわかりやすいネーミングなんですが...。

 社を象徴する代表的な高級ラインが、"カスタム74", "カスタム742", "カスタム743", "カスタム845", "カスタムUrushi"で、いずれもペン先には金(gold)を用いています。

 語の一般的な意味で、"カスタムcustom"という単語は、"特別あつらえの", "オーダーメイドの"という意味ですから、工業製品にあっては、"大量生産"とは対義語です。

 さて、この会社は、万年筆メーカーとしては日本では最大、世界でも有数です。ゆえに、もちろん"カスタム"シリーズは、オーダーメイド品ではなく、大量生産品です。

 「あなたのためだけに特別におつくりしました」と称して差し出された大量生産品...。

 ただ、ペン種(ペン先の種類)が多く、「使いたい人ごとに個別にあつらえている」とは言えなくても、消費者の要望を取り入れた上で、高性能な製品を比較的求めやすい価格で大量生産している点、尊敬しています。パイロットのファンであるゆえんです。(でも"カスタム"はやっぱりさすがに違和感...)

 "74"とは、会社創立74周年を機にフルモデルチェンジした製品。

 "742"は74周年時に2万円で、"743"は同じく3万円で売り出したものです。ちなみに"74"は1万円、その後に発売された"845"は5万円でした。

 この価格は、つい昨年(2024年=創業106年)まで長く続いたのですが、現在(2025年6月)、例えば"カスタム845"は110,000円(税込)です。パイロットを責めるわけにはいかないでしょう。寒い国の領土欲に満ちた独裁者が乗り出した戦争と、かつては民主主義を誇っていた国の金銭欲に駆られた新独裁者が関税というインネンをつけて世界中を恐喝しているせいで、"暴騰"、を越えて、"沸騰"している純金相場のおかげです。

 「インフレ」「購買力平価」「世界情勢の変動」という現象を知らないかつての平和な大企業在住の方によるネーミングだったのかもしれません。

 "カスタム743"を私なりに翻訳すると、"大量生産74年型3万円版(ただし価格は44,000円)"...。製品名としてはすばらしくわかりやすくなりました!...え?、とてもじゃないが買いたい気持ちにさせる名前じゃないだろうって?...やはり"ヨーデル","ソルベン"並みの、心をわしづかみにする破壊力が必要ですよね。