■ 暑苦しい現実から、今日はこんなふうに逃避しましょう。"気持ちをたてなおす"、という意味の"なおす"。
■ 今日はつけペン(のうちのGペン)と、いただきもののインクで、Schumann / Dichterliebe Op.48とLiederkreis Op.24 の何曲かを、CDのブックレットを見ながら、ただ意味もなく書き写してみようかな。
■ 毛筆書道の会派流派は非常に多いです。他に、硬筆書写の世界つまりペン字で美しい字の研鑽を積む芸術分野もあって、コレは会派流派が集約されている印象です。
■ 文房具メーカーのパイロットでは、万年筆の需要掘り起こしも兼ねてか「硬筆書写の廉価な通信講座」というユニークな事業を実施しています。ここの「今月の課題」は、ウェブサイトで公開されているので、その級位クラスの課題を見てみましょう。
■ わかりやすい日常のことばですネ。パイロット講座は、楷書でも行書でも提出可能だそうですが、順調に進級するには「希望をもって元気に努力」する必要があるようです。
■ 5月の連休明けにチョイと机に向かった人を、3人ほどご紹介中。おとといの続きです。
■ Cさん。年齢30代、研究職。地方の旧帝大の修士卒の方です。
■ 明るく楽観的なCさんは、数学理科が好きだし得意。文学のようなあいまいさ、美術や音楽のような主観的バイアス、公民科目のような結論なき狭い価値観の衝突。これらに比べると、数学や物理のような「疑義のない客観的な一つの真理」、化学や生物のような「物質たちのクッキリとした個性と多様性」。迷いなく進み、思考と結論を積み重ね、楽しめます。大学進路もそうなりました。希望の大学に合格し、理系である自分に対する自信、誇り、プライドも高まります。
■ Cさんの大学受験の頃と時期を同じくして「リケジョ」が流行語に。学部・修士と彼女があゆむと同時進行で、女性研究者への社会的注目度が爆発的にアップしました。すばらしい好条件で研究職に就き、迷いのない生き生きとした毎日です。
■ 若き研究職のまさに花であり花形としての毎日なのですが、世間では、輝くリケジョのアイコン的存在の方が発見提唱したナントカ細胞が、世界的注目度がピークになった...ら、なんだか妙な雲行きになってきました...。
■ 職に就いてからの趣味は海外旅行です。お盆・年末年始・5月大型連休は海外のリゾート地を満喫します。「研究職」の毎日からの大きな解放感が得られ、非日常の休日で大いに充電してまた仕事に臨みます。
■ コロナの世の中になりました。気にせず海外旅行したいのですが、社内の同僚たちの目がちょっと...。また、仕事は、研究の現場があるのですが、基本的に自宅でリモートワークです。
■ その状況下でお盆や年末年始のお休み...、とは言っても、家で仕事、家で休日...。世間のニュースでは製薬会社の若い研究職夫婦間で殺人事件など、気持ちがしぼむ世の中になってしまいました...。
■ 家で過ごす休日のある日、同居する母親に簡単な頼みごとをされました。母のお友達に書道何段だかの方がいて、いつもは展覧会を見てお食事やおしゃべりをして...だった習慣が、コロナ禍で「書道展覧会がオンラインにて実施」になっちゃったのだそうです。母は、展覧会のウェブサイトを見たいとのことで、Cさんの大画面パソコンを操作して展覧会を見せてもらいたいのだそうです。
■ Cさんは書道には興味がないです。学校時代にすでに気づいた通り、芸術作品などは、見る人によって価値が異なる主観的バイアスが、知性では納得できず、理不尽です。が、母の頼みごとはたやすいことでしたから、いっしょにPC上で展覧会のウェブサイトを見ました。
■ 見ると、母の世代の書家の方々の毛筆は、楷書体はなく、草書体...。行書体もあるのですが、平安仮名で綴った詩歌のようです。隣で一緒に画面を見る母は、喜んだり感心してため息をついたりしていますが、Cさんは、どれを見ても意味不明です。
■ が、ずっと見て進むうちに、硬筆書写の展覧会にもブラウザで遷移できました。そこで、ペンで書いたその展覧会の作品群を見ると、楷書も多く、行書も読みやすく、意味が分かる...どころか、なんだか美しさもわかります...
■ い、いや、わかる、を越えて、その美しさに引き込まれます。
■ 見るほどに、蜘蛛の糸よりも細く、経験したことのない美しい行書体や仮名の連綿体が大画面いっぱいに広がり、まったく新しい価値の世界がどんどん奥に広がっていく気持ちになりました。
■ このコロナのご時勢、私も硬筆書写を始めたい!とまで、こころを打たれました。
■ 調べてみると、教室に通わなくても、「パイロット」と「日ペンの美子ちゃん」が通信講座の双璧とわかりましたので、親しみがわく「美子ちゃん」の、ペン字の「競書誌」を毎月購読して課題(お手本)を書いて提出し、進級していく形で、自分も練習して、あの美しい文字を目指すことにしました。
■ 新しい価値観・新しい人生の目的ができました。コロナ禍の閉塞した毎日に張り合いが出ました。
■ 最初は10級からスタート。毎月、清書した課題を郵送で提出。2か月後の競書誌で自分の名前と進級したかどうかを見ることができます。もし順調に進めば、...2級,1級,準初段,初段,2段...5段...準師範,師範という最高位に登りつめるシステムです。
■ 級位クラスと段位クラスでは、課題(お手本)が違います。級位クラスの手本は、10文字以内のごくやさしい日常表現です。
■ 1カ月間、ほぼ毎日課題を練習して、清書して、送るのが、彼女の日課となりました。
■ Cさんは、9級, 8級, 7級と、毎月どんどん進級します。
■ 夢中で練習して半年以上...。意識下で気づいていたかもしれないチョっとした違和感が...。
■ 彼女は学部時代以降ずっと、科学論文を読んで書いてきました。その際は、誰にでもわかりやすい日本語や英語に慣れ、こころがけてきました。必要な情報が、客観的に、短く、装飾なく、主述が完結した一文に、おさめられていなくてはなりません。
■ 他方で、ペン習字のお手本って...。感傷的だったり、途中で切れている感があったり、誤った表現に思えたりと、国語的な感覚が、自分の価値とは整合しない気が...。
■ 彼女が違和感を感じた課題が何なのか、その時点における課題がもう再現できないのですが、類似の課題の例は、どうやら、以下の↓ようなものらしいです;
■ 「LEDの多彩な光が」;え?...光が、...どうしたの? そこまで言って感極まったの? それきり言って息絶えたの?
■ 「すっかり冬の装いで」;え?...装いで、それで、どうしたの? 続きは?
■ 「先んずれば人を制す」;繰り返し練習すればするほど、な、なんだかこれまでの課題から一転して急に攻撃的な雰囲気を感じるのですが...。
■ 「霞始めてたなびく」;これは新暦では2月にあたる七十二候の「霞始靆」に由来する漢語なのはわかるんですが、現代日本語では、「はじめて」という単語は、「経験・時期的に」の意味で「副詞として/名詞(体言)として」使う場合は、「初めて」という漢字をあてたほうがいいんじゃないかしら。「始めて」だと、動作を表すマ行下一段動詞「始める」の連用形に接続助詞の「て」を接合した一文節で、動作の並列状態を指すのじゃないかしら...。疑問に感じたCさんは、図書館で数冊の「類義語辞典」や岩波の「広辞苑」を調べます。すると、Cさんの理解と似たような説明がありますが、追加的に、"慣例的にいずれも用いられる"点を書き添えています。
■ Cさんは、自分が大学受験までに学んだ「日本語の現代文法と古典文法」vs「今月の課題」の齟齬を感じたことが、もう数回。その都度、「今月の課題」の日本語を図書館で何冊かの辞書に相談した経験をしました。するとそのたびに「どちらも誤りではないが」「慣用的にそう用いられる」などといった結論に達して、自分は大学受験時代に理系だったけど、国語だって人並み以上には勉強したのに...と、自分の知識や自信やプライドが揺らぎ、腑に落ちない気持ちになりました...。
■ 極めつけが、日常的な、あまりにも日常的なお題、お料理名です↓。「美子ちゃん」でも「パイロット」でもたまにあるのですが、Cさんには初めての体験だったこの課題は、積もっていた疑問「習字はきれいな字を書けばそれでいいんだけど...」「でも、毎日練習する甲斐がある、ちょっと日常を離れて上を見上げるような『努力』『希望』的なお題がいいんだけどな」「私、小料理名を毎日繰り返し書いていて、楽しいのかな...」を明確な意識に浮上させてしまいました。
■ さて、そんなふうに疑問を感じ始めた途端、これまでの情熱が色褪せてきました。
■ すると、順調に昇っていた進級が、3級でぱたりと止まりました。先月も3級、今月も3級でした。だからいっそ1カ月お休みして、気を取り直して次の課題を清書して提出したものの、やはり3級...。
■ この連休中こそ一生懸命に書道の練習を重ねようとして与えられた課題が「サンマの塩焼き」や「本マグロの中トロ丼」だとしたら...。「サンマの塩焼き」を繰り返し激しく真剣に清書しなくちゃ...し、しなくちゃ...。た、食べればおいしいんだ...、なごむんだ...、楽しいんだ...、と言い聞かせる自分。
■ なんだか気が進まないような気がするペン字課題を自宅にこもって練習して、今年の5月の大型連休は終わりました...。え? 「充実感」? 今は、こころに寒い風が吹く言葉です。これを清書して提出して来月も3級なら、私の連休って...。
■ 知性では納得がいきません。こんなに頭を抱えた連休は経験がありませんでした...。
■ これまで、爽やかな5月の連休は、青い海と白い砂浜の海外リゾートで、大いにのびのび解放感...だったのにナ...。
■ 私は、Cさんが自力でブレイクスルーを成し遂げてくれることを、心の中で祈っています。
「...って、まさか、また、ド・ケルヴァン(狭窄性腱鞘炎)とか、ばね指(靱帯性腱鞘炎)とかのこと?」
「うん...(泣)」
「今度は、何に書きまくったのさ?」
「古い有料の『地域電話帳』。捨てようと思ったら、万年筆にはすばらしく紙質が良くて、ついそれ1冊使っちゃって...」
「おばかだなぁ...また手術しなきゃだめになっちゃうよ!わかってたんでしょ!万年筆だなんて、仕事でもまともな社会生活でも、何の必要でもないんでしょ?」
「う、うん...。万年筆は、今どきもう実用には使えないし...。」
「ボールペンや鉛筆はまだ実用品だけど、キミって他の筆記具も使ってるんでしょ、このパソコンの時代に。それって、まるっきりただのお遊びなんでしょ? 」
「う...。い、いやっ、つけペンなら、お役所や税理士さんに出す文書やハガキや手紙には、ちゃんと実用...」
「いいから、しばらくおとなしく手を引っ込めて本でも読んでなさい!」
「はぁい...。でも、昨日で英単語集3周目を終えてワカったこともあったよ! 今使っているパイロットの顔料万年筆インク『強色』さ、英文25文ずつ毎日書いていたら、4,5日で1回インクを1cc補給するけど、こないだから鉛筆(Hi-Uni 10B)をヤメて(1/15ご参照)、万年筆だけで書いていたら、25文×4日で1本使い切ってたのが、1日に100文書いたら、ぴったりカートリッジを1本ちょうど使い切るから、つまりこういうことだよ (cf. 1/15)↓;
...っていうことだよ。『強色』は、太字で使う際のインクだけの値段だけど、コストパフォーマンスは、あれだけ寿命が短いとボヤいた太字ボールペン(2023/12/14)にすら及ばないんだね。しかも何万円もする万年筆本体は含まないのにね。これじゃぁ実用のためには使い続けられないね。趣味やお遊びなら...、う~ん、だったら、Hi-Uni 10Bの方が楽しいかなぁ。でもたまには万年筆でのびのびとさぁ...」
「...ふう、ぼくにも今つくづくワカったことがあるよ。」
「え? 何がワカったの?」
「キミにつける薬は、ないってこと...」
■ あいかわらず単語集を、万年筆と鉛筆で50文ずつ書き進んでいます(11/1)。単語を覚えるためではなく、芯とインクの減り具合を確認してみたいためです。
■ それとは別に、ここ数日は従来型高粘度ボールペンで楽しんでいたのですが、書く文字は小さく、減りの速度は速く、ここいらで気分を変えて、大きい字を、減りの心配がないたくさんあるインクを使って、万年筆でのびのびと書きたい衝動に...。定期的に「小さい字」→「大きい字」と気分が往復します。9/12や9/15にも書いたのと同じ記事だと思って下さい。
■ 今日は、また溜まってきた、茶封筒角2サイズと、買い物を持ち帰る際にお店でくれる紙製の手提げバッグ(って言うのですか?)を、裁断機で解体してA4サイズにし、PCのプリンタで罫線を印刷し、万年筆ででかでかと書きます。家族親族にも「余ってる使用済み封筒があったら、ちょうだい」などと情けないお願いをして、何枚か集まってきました。単純にうれしいです。
■ 茶封筒も紙バッグも、クラフト紙ですので、分厚く、万年筆で書くと、実は快適です。
■ 万年筆も、太字。パイロット(Pilot)製品は何本かありますが、気分転換に、それ以外で書いて、ボヤっと思ったことを、口走る...より入力した方が私は速いかも...。
■ 紙が万年筆にとっては粗悪な品質(?)なので(だったら書くなよと言いたくなりそうな無理な試みですが)、なるべく気軽に使えてガシガシ書き進んでいける鉄ペン先の太字...こういう製品が無いんですよ、「鉄ペンで極太」。
■ 個人的好みとして、一般に万年筆は柔らかいほど心が和み使いやすいです。パイロットのカスタム漆、ペリカン(Pelikan)のM1000、パイロット742;F(フォルカン)、と、万年筆ではないのですが、つけペンのうちのGペンです。「柔らかい金ペン」はこの3本で生涯を終えても、もはや何の悔いもなく満足です。
■ ガチニブはちょっと...なんですが、今の用途 - 解体した茶封筒や紙バッグのような「クラフト紙」に、いわば書きなぐるのなら、金ペンより鉄ペン、柔らかいニブよりガチニブ...。
■ こういう場面で、他の万年筆に疎い私の浅い経験では、いちばん使いやすいと思う「鉄+太字」の条件をみたす万年筆は、台湾のツイスビー(TWSBI) Diamond580のB(太字)です。ペン先はガチニブで、軸も長く剛性感に富み、このジャンルでは突出した万年筆です。とはいえ、購入した数年前に比べると、今では3割も4割も値上げされていて13,200円ですか...。でも品質や実力に比して価格はまだまだ割安と言えます。
■ 次点が、画像のカヴェコ(Kaweco) SportのBB(極太)です。ペン先はパイロットカクノより小さくチャチで、本体は鉛筆キャップより小さい上、触ってがっかり、剛性感がなくて安っぽいです。が、書き出すと、いっちょ前に「ドイツ製万年筆の極太」の筆跡です。
■ 有名どころのラミー(LAMY)には、日本国内のラインナップにBがありません。ペリカン「クラシック」は、鉄ペンでBもありますが、2万円という価格は...。アルミ製のKawecoも同断です。パイロットの742の良心的な定価や743の割引後の実売価格とバッティングすると考えると、ありえない選択です。
■ 日本製でステキなのが、セーラー(Sailor)の「プロフィット・カジュアル」です。この鉄ペンは、ペン先が、Bも、またZ(Zoom;極太)も選べます。出た当初、思わずZに飛びつきました。サイズは、セーラーやプラチナは全般にそうですが、小さくて華奢です。が、Zの筆跡の図太さと書きやすさには感心しました。
■ 筆跡の圧倒的太さでは、モンブランNr.149のBBB、ペリカンM1000のBBBがありました(オブリーク版も別に存在しました)。試したことがありますが、異常な世界。カリグラフィー用でしょうか、Nr.149はイリジウムが極薄の平研ぎで、18Cだったけど硬く、書いていてちょっと不快でした。M1000のBBBは、イリジウムが巨大な球で、イマ思い出すと喉から手が出てきそうですが、今となっては、世界的にも私の財布的にも入手は絶望でしょう。149のB以上は現時点ではそもそも全て平研ぎで、長時間にわたり「本文」にあたる筆記を続けるのは苦痛です。日本製品にも、三社一様に「M;ミュージック」と銘打って同じ筆跡が得られるペン先ジャンルがあります。やはり平研ぎで、長時間の連続筆記はつらいですが、日本製品は三大メーカーとも、ほんとうに微に入り細を穿つ怒涛のラインナップを揃えてくれるという心づかいがあり、世界に類のない良心的なメーカーばかりです。
■ Nr.149やM1000を別にして、実用レベルで最も太いのは、パイロットのC(Coarse)ですよ。繊細なペン先のプラチナでもCがありますが、プラチナのペン先は全体にか細く、本体は全体に小さいです。細やかな日本語向け製品なのでしょう。セーラーのZはすばらしいけれど、パイロットのCは暴力に近い(?)...というわけで、私のような、本来筆記用途のはずがない紙バッグのクラフト紙などに書こうかという野蛮な人間にもたいへん魅力的です、が、Cは金ペンしかないんですよ...残念(と言いつつ、カスタムシリーズでは硬めの912のCを常用しています。画像のような使い方や書き方だと、カートリッジは1時間ももたないです...)。この点で、鉄ペンでも極太ペン種を選ばせてくれるセーラーには、大いに感謝しています。
■ と、言いたい放題なわがままでした。反論したくてむずむずしている方もいらっしゃることでしょう。蓼食う虫も好き好きという表現を思い出していただいて、妙なヤツもいるものだと、どうか大目に見てください。おかげで私は、今日は、カヴェコとツイスビーで、大いにストレス解消になりました。年に何回かこういうストレス解消が必要なようです。ふつうの人にとっての「良いお酒をじっくり飲む」「パ~っと飲みに行く」「甘いお菓子を楽しむ」「奮発して外食する」「旅行にショッピングにお出かけする」...どれも私は全く縁がないのですが、それらと同じ行為、「くつろぎ」「精神の解放」だと思います。
■ その目的としては;インクのせいで、錆の生成が促進されるんでしょうか。また、錆びるとして、その速度はインクの種類により違うんでしょうか。
■ 例えば、通称「古典インク」=「没食子インク」は鉄イオン含有液体ですが、おそらく金属の腐食原因になります。これと顔料インクというコロイド溶液を混ぜたら、「万年筆は詰まりやすい」と言われますが、錆はどうなんでしょうか。悪者の古典インクが、顔料インクという悪い仲間と結託して最悪の結果をもたらすんでしょうか。それをチョっと確かめてみたいだけなんですよ。
■ ま、日常生活レベルで目視できればそれでOKという、ゆるい話です。
■ なお、つけペンで日本語を書く際に使うのは、私も、また一般的にも、もっぱら顔料インクのみです。なお、墨汁・墨滴・墨液も顔料インクの仲間です。
■ 今どきわざわざつけペンで日本語を書くようなヒトの中に、書いた後にペン先を拭かず洗わず放置するヒトはいないでしょう。でも、ふき取ったペン先なのに、数日後や数か月後に、ペン先のスリット(切り割部分)がサビているのに気づく、というのは、私も含めて広く経験されている事象です。
■ インクの成分のせいで錆びる - インクの種類により、錆び方が違う - という仮説を立てて、これを確認します。
■ 手順としては;異なる種類のインクに漬ける - 数か月放置する - 目視で確認する、というだけです。
■ 漬ける際に、なるべく錆の生成を促進するため、液体(インク)に水没させたり浸漬させるのではなく、金属表面が、液体と空気につねに触れるようにします。そのために、ペン先を脱脂綿に置き、これにインクを滴下して放置します。綿繊維に接触させることで、金属・空気・液体の接触する表面積を広く確保できそうです。
■ 作業としては;綿棒とペン先の凹面を固定し、コットンパフ上に置き、インクを2mℓ(単体)~4mℓ(混合液)それぞれ滴下し、濡れた状態ですぐその上から再びコットンパフでサンドします。
■ 使ったインクは、下の画像の通り、水性染料「パイロットブルーブラック」、水性顔料「プラチナカーボンブラック」、古典(没食子)「ペリカン4001ブルーブラック」です。(上のトップ画像右の「パイロット顔料インク」は使っていません)
■ 比較対照(群)として、滴下する液体を水道水のみにしたものも、置きます。
■ 以上の試料すべてを、通気性のある蓋つきプラスチック容器に収納し、半年ほど放置します。
■ 以上、ただ放置するだけかよ、というショボい実験?の、単なる備忘録です。んじゃまた半年後に(;^^w
■ 金属リサイクルごみに出すことによって捨てるのですが、その前に、これを使って、ちょっと確かめてみたいことが。
■「万年筆が書けなくなる症状」のうち、インクに由来する「固着」「詰まる」症状のせいで、書けなくなった経験は、ここ50年ほど定期的にあります。半世紀近くも前の中学高校時代には、洗ったのに、漬けたのに、回復しない、もうだめだ、と思って見限ったものが何本かあります。「しばらく使っていなかったから不調なんだ」「内部がゴミやホコリや錆びで詰まったんだ」などと漠然と思いました。
■ 物理や化学を学んだハズの後の大学生以降も、その知識を、現実生活(書けなくなった万年筆)に適用してみようだなんて思いも寄らない話です。別に万年筆でなくても、たとえば、「ポカリスエットやアクエリアスを冷凍庫に入れてもなかなか凍らない。おかしい。ペットボトルに水を入れて冷凍庫に入れたらすぐ凍るのに」「スパゲッティをゆでようと思って、鍋に水と塩を入れて、がんがん加熱してるのに、今日はなかなか煮立たない。おかしい。ふだん同じ量のやかんの水はすぐ煮立つのに」ってのが、どちらも、混合物の沸点上昇凝固点降下現象という化学の最初の知識だなんて、やはり思いも寄らない話で、「なんでだろうな、焦っているからそう感じるだけか」ってなわけです。明日からは、湯が沸騰してから塩を入れようかな。
■ ウェブサイトでゴマンと拝見する万年筆に詳しいようすの先達の皆さんのアドバイスから学び知るところによると、「1) 万年筆のドライアップには気をつけよ。染料インクだけなら、ドライアップしても、水やぬるま湯にひと晩つけておけば回復するが、顔料や古典は、ドライアップさせたら回復不能。また、2) 使うインクには気をつけよ。インク同士を混ぜてはならない。化学変化が起きて詰まるかもしれない」。
■「万年筆が書けなくなる症状」のうち、インクに由来する「固着」「詰まる」症状の類型は、大きく2種類;1) 乾燥、2) 変質、ということなんですか。
■ 1)は、水分が蒸発して粘性が上がり、固体(固形成分)がペン芯やペン先など流路に固着して、液体(インク)の流動を阻害するという意味なんでしょうか。
■ 2)は、その化学変化ってナンなの、新たな生成物はナニなの。
■ などと、上級者の方々のウェブサイトを拝見するたびに興味がわくのですが、詰まる物理的メカニズムや具体的な化合物混合物や化学的機序を教示してくれる説明に、なかなか出会えずにいます。
■ ま、疑問は果てしないとして、手もとにある捨てるだけの鉄製ペン先なら、書けなくなる症状のうちの1つ、「インクのせいで錆びる」のかどうか、簡単に判別できそうです。もっとも、高額な万年筆ならペン先は"ひどすぎる借金"のおかげで錆びないんだけど。
■ 鉄ペンなら、表面に防錆加工はしているけれど、使ってすり減ったらどうでしょう。また、インクによって錆びかたが違うのですか。悪者の没食子インクが顔料などと一緒にさらに悪者になるのですか...。つけペンのペン先をいろんなインクに漬けて放置してみましょう...。どう試してみましょうか。
■ 今どき「つけペン」を使う人って、1) イラストやマンガを描く人、2) 硬筆筆記(日本語のペン書道)を嗜む人、の2種類です。
■ このうち、1)は、新たに始める人もこれまでやっている人も、多くがパソコン描画に流れつつあります。また、2)は、隆盛をきわめる日本のゲルインクボールペンにとって替わられつつあります。
■ ということは、日本では明治以来の歴史をもつ「つけペン」の「ペン先」を製造する会社は、かつての鉛筆同様、「下町の小さい工場」のメーカーが次々と淘汰されていったと同じく、現在は、「タチカワ」「ゼブラ」の2社のみです。「つけペン」自体、 「タイプライター」や「日本語専用ワープロ」みたいに、消滅していくのも時間の問題でしょうか。
■ 私は、上1)ではなく2)の末端にしがみついているところですが、欧米文でも使っています。
■ 日本語には「たまペン (さじペン、スプーンペンとも言う)」「日本字ペン」というペン先を、欧米語には「Gペン」というペン先を使います。
■ インクをつけて書きますので、インク瓶かインク壺が必要です。ただ、インク瓶は頻繁に開け閉めすると、水分が蒸発し乾燥し凝縮し、同時に空気中のホコリや菌類細菌類が混入して成分が変質します。最悪の事態がカビの発生です。私の場合は、インク瓶からシリンジに吸入して、画像に見えるように、コンタクトレンズ容器に3cc程度を滴下して、いわば小分けして使っています。コンタクトレンズケースも1~3週間程度で水洗いしてリフレッシュします。
■ 日本語なら数文字、欧米文なら一文節程度書くごとに、インクをつけ直します。
■ また、数分ごとに、ペン先からインクをきれいに拭き取るか、水洗いして水をふき取り、ペン先をリフレッシュして新たにインクにつけ直します。その日使い終える際は、水洗いして水分をふき取ります。でないと、翌日サビています。
■ 使っているうちに、ペン先は、すぐに摩耗し始め、いずれ使いづらくなります。消耗品のペン先は、今どきは、1本あたり80円から300円程度でしょうか。
■ まるで、以前に取り上げた、クラシックシェービングの両刃替刃と同じで、頻繁に交換が必要です。
■ さて、その、摩耗していくペン先ですが、1) 新品おろしたての時はもっともシャープですがガリついて、使いづらいです。この点が刃物と違います。2) しばらく使うと、シャープさを維持しつつ滑らかな書き味になります。これが使いどころです。3) 使っているうちに、滑らかさは増してくるのですが、次第に太く鈍くなってきて、表現力が劣ってきます。こうなったら、交換のしどころです。そう判断するタイミングは、個人の主観でしょう。
■ 古く鈍くなったものは、両刃カミソリのようにすぐ捨ててもよいです。が、つけペンを使うほとんどの人は、取っておいているのではないでしょうか。その理由は、古く太いものも、試し書き・下書きなどに、それなりに使えるし、シャープさは要らないが少し太目の筆跡が欲しい場面もあるからです。
■ 私の場合は、1週間から1か月で新ペン先に交換します。古いペン先に、細字のマジックで、新ペン先に交換してペン軸から除去した日付を書いておきます。古いものは捨てられずにとっておくので、どんどんたまります。
■ 実は、そのペン先の整理も必要です。めんどくさがっていると、どのメーカーのどのペン種の、どれが新しくてどれが古くて、どれがどの程度の太さで、など、カオスになり、気持ちが荒れます。すると楽しいペンライフではなくなるというわけで...。
■ そこで、今日は、たまったペン先を整理しました。整理のしかたは人それぞれでしょう。私は平面上に古い順に1本1本を徹底的に並べる作戦です。ハズキルーペが必要な作業です。人に見せると偏執狂と思われるに違いありませんが、これまで誰にも言ったり見せたりしたことはなく、恥ずかしいのですが今日が実は初めてです。今日は、思い切って整理しきって過去の古いペン先の本数を数本に絞りました。あとは金属リサイクルごみとします。
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■ 「なんという手間!」「だったら万年筆の方がよい」「なんのためにそんなものを使うのか」というのが、自然な発想ですね。つけペンは、ペンが消耗品ですし、インクを頻繁に拭きとる分だけインクは無駄になるし、インク瓶は開封した時点から刻一刻と乾燥や変質をたどるし、ヘタをすると瓶をひっくり返して無駄になったり周辺を汚損します。
■ 「つけペン」でなくてはならない理由は、「異次元の表現力」です。
■ 例えば、プロのイラストレーターさんや硬筆書家の師範の方の、つけペンによる自筆原稿の原本をご覧になってみてください。万年筆も含めたいかなる筆記具も遠く及ばない、目を見開くような神業です。
■ そのレベルまでいかなくても、いっぱんに、手で書く行為を楽しむことができる人は、誰かに見せるかどうかはいったん置くとして、「書き味や筆跡が、思いのほか多様で美しく現れ出る、その過程を味わう」という楽しさを知っているからではないでしょうか。
■ 私の場合は単純に自己満足ですが、自分の文字がこんなに美しく現れ出るとは(人にはお見せできたものではありませんが)!という驚きが大きいです。ですので、万年筆のうち、つけペンと競合する細字や極細字の万年筆は、もう完全に不要です。
■ 手間暇のかかる「つけペン」なんて、そんなヘンなモノを維持する意義は...、私には、あります。もっと使いこなせるようになりたいと思います。願わくばペン先を製造する会社がずっとありつづけてくれますように。