■ あなたは8歳で、遠く離れた所に暮らす祖父母に会いに行くとしましょう。めったに行けない特別な日。あなたはうれしいです。
■ ところで、何がうれしいですか? "家族みんなで過ごす特別な休日の気分"という雰囲気が大きいですよね。もっと突っ込んだ「うれしさ」の実利的本体は? 現金をもらえる? まだお金の価値はよくわかっていないからそれは除外。子どもなら、「いとこたちと遊べる」「いつもと違うおいしいものが食べられる」という期待が大きいのではないでしょうか。
■ 後者について、2通りありえます。
i) おばあちゃんお手製の、あのごちそうにありつける
ii) おじいちゃんおばあちゃんが外食に連れて行ってくれる
■ i)は、たとえば、盆暮れという特別な日に連れて行ってもらえる、農家の祖母のつくる"甘い茶わん蒸し"。茶わん蒸しなんか、今となっては大したものじゃないかもしれないのですが、昭和の時代、自家製となると、たいへんな手間のかかった特別な日のごちそうです。孫たちの顔を思いながら、ただでさえ忙しい盆暮れの時期の、前の日朝早くから、20も30もの蒸椀、巨大な鍋、膨大な材料の山のなかに祖母はうずまるようにして仕込みます。
■ ii)の経験は無いのですが、現代では当然あるでしょう。せっかく孫が来るのだから、ひとつ豪華盛大に、高級旅館の割烹、高級ホテルのレストランなどに、予約を取って、孫たちを引き連れて、クルマで乗りつけます。孫にとっては、ハンバーグステーキ&ビーフシチューセットが、いつも食っているのと違って葡萄酒みたいなお酒の匂いがきつくて、大人向けの味なのかな。
■ その孫たちがティーンエイジャーになる頃、祖父母は他界。
i) あの茶わん蒸し、もしかして盆暮れに準備するのってたいへんだったんじゃないのかな。もう二度と...。祖母の手仕事を味わえた幸せが、今になって実感され、それは生涯続くでしょう。
ii) あの高級ホテルのレストラン、もう二度と...、って、ふつうにまだあるしぃ、今度は親にあのハンバーグを食わせてもらえるかな...。味は...思い出せないが、ま、ハンバーグだからいいじゃないか。
■ そのティーンエイジャーが親になる頃、父母は他界。
i) 祖母のあの茶わん蒸しは、もう永遠に失われたけれど、もう大昔の記憶でも、自分が生きている限り覚えているあの味わい。自分にも他人にもとうていマネできない複雑な料理の仕込みに、祖母のまごころを実感。
ii) 祖父母の家に行くたびに、あちこち外食に連れていかれたのが、もう大昔のことで記憶は薄れ、ドコで、ナニを食ったかなど忘れてしまった。けど、ま、外食に連れて行ってくれる人たちだったのは確かだったかな。
■ i)は私の経験です。ii)のように「家族で外食」の経験は絶無です。私にとってはi)が貴重な思い出ですが、i)でもii)でも、今どきそう重大な問題ではないかもしれません。
■ まったく同じ事例とはいえないのですが、特別な日、と言える「お誕生日」。お誕生会は、自宅で家族で? それともレストラン貸し切りで? 青森県立高校入試問題の場合を見てみましょう。あい変らず恐れ多くも拙訳で:
"ジェニーは8歳。おばあちゃんが大好き。ジェニーの家は祖母の家から遠く、そうたびたびは会えなかった。
ある日ジェニーが「お父さん、私はおばあちゃんの誕生パーティーをしたいの。どう?」と言った。「それは素晴らしいね。駅の近くに良いレストランがあるよ。ロブスターキングっていうんだ。私は店の主をよく知っている。そこでパーティーを開こう。私が予約しておこう。」「ありがとう、お父さん。」
父親は電話に駆け寄り、レストランに電話して、パーティーについてウェイターに話した。「申しわけないのですがブラウン様、店主は今ここにおりません。お嬢様の考えはわかりますが、来週の日曜日は閉店しております。」ブラウンさんはそれを聞いて悲しかった。「わかりました。ありがとう。店主さまによろしくお伝えください。」
いくつか他のレストランにも電話をしたが、予約を取ることができなかった。ジェニーは泣き始めた。「お父さん、私たちどうしたらいいの。」「心配ないよ、ジェニー。私がレストランを見つけよう。」
父がずっと電話帳でレストランを探しているときだった、電話が鳴った。ロブスターキングの店主のグリーンさんからだった。「ブラウンさん、お嬢様が、おばあ様のために来週日曜にここで誕生パーティーを催したいとのこと、ウェイターから聞きました。」「ええ、でもお店は閉まっていると。」「何人の方がパーティーにお越しですか?」「4人です。」「実はその日ここで、私の父の誕生パーティーを開く予定なんです。2つのパーティーを一緒に開くのはいかがでしょう? 人が多いほど楽しいでしょう。」「本当ですか。あなたのお父様にお願いしていただいたのですか?」「そうです。父は2つの楽しいことがあれば、みんなもっとうれしくなるだろう、と言っています。ですので、どうぞレストランにお越しください。ビュフェ式のパーティにします。」「どうもありがとうございます、グリーンさん。」
「ジェニー、良い知らせだよ!私たちはロブスターキングでパーティーを開けるよ。盛大なパーティになるよ、きっと。」「ほんとう? どうやってできるようにしてくれたの?」父は電話での会話をジェニーに聞かせた。
2つの誕生パーティーが始まり、20人の人々が集った。ジェニーはプレゼントを祖母に贈った。ブラウンさんは自分の娘にこう言った。「ジェニー、店の主のお父さんはステキな人だよ。彼の親切なことばのおかげで、今日、私たちはパーティができたんだということを覚えておきなさい。」すると、彼女は店の主の父のところにあゆみ出て、「ご親切をありがとうございます。私はあなたのことは忘れません。お誕生日おめでとうございます!」彼女は彼にプレゼントを贈った。その場の誰もがほほ笑み、しあわせだった。"
■ "ハッピーエンドでよかった!ほのぼのとこころあたたまるお話で...す...ね..."って、なんだか素直にこころがあたたまってくれない気もチョっとします。お誕生会って、どうしても"パーティ"をしなきゃだめ? しかもそれを"レストランで"しなきゃだめなものなの? という疑問。
■「そりゃ当然だろう」という声もあってよいですが、「う、う~ん」の声の余地も同等に、どうぞ認めてください。なんだか、出題者たる青森県教育委員会の偉い方々の生活水準の高さと価値観の乖離をここでも(🔗2023/11/16)また感じてしまったのは、私だけかなぁ。受験生のみんなはどう思うんだろう。