2023/11/16

■ まなぶ - 高いマグロ - 青森県立高校入試H19(2007)年 - 社会第3問(2)


モモさんというその人の話を聞いたのは、十数年前。話してくれた知人は当時中学生の娘さん(トモカさん)の親で、そのトモカさんの仲良しがモモさんです。

私は学校関係者でも中高生の親でもありません。

 二人は、中2春のクラス替えのときに同じクラスになりました。

 トモカさんが、初めてモモさんに話しかけたのは「部活はなぁに?」というセリフ。そのときに知ったこと;モモさんの家は、母と祖母が経営する小さな生花店で、保育園年少の妹がいて、毎日の夕食は、モモさんが、家族である祖母・母・妹のためにつくっている。土日は花屋さんの仕事。

 モモ「だから、部活とか生徒会とかで遊んでいるヒマはないんだ」とキッパリ。「学校の授業終わったら、すぐ妹を保育園に迎えに行って(保育園は自宅と中学校の通学路の途中)、スーパーで晩ごはんの買い出しをして、晩ごはんつくって...。」

 トモカ「そ、そう...。でも、いいネ、お花屋さんって、ステキだね。」

モモ「あんた、花屋のキツさ、知らないからそう言うんだろうけど。真冬の朝の市場でも店でも一日中水にぬれて、冷たくて目から火花出るからね。ずっと重い束を動かしてなきゃなんない仕事だし、枝や葉や棘や刃物でナマ傷だらけだし...」

 トモカさんは、取り付くシマもなく厳しい人柄とその背景にある生活を負うモモさんに、恐怖を感じました。

 でも、学校で、不公平で横暴な男子生徒や先生たちに対して、敢然とモノを言い、女子の泣き寝入りを許さない態度に、女子のみんなが惹かれます。家庭科は、調理の包丁さばきも段取りも被服の縫製も、先生より速くて上手です。学校の成績順位は学年でベスト3です。「生徒会長に立候補したら?」「(隣の都市にある)より良い高校を受けたら?」の勧めは、すべて「家が忙しいから」「大学とか行かないから」と拒否して、自宅から一番近い県立高校志望です。

 高校受験も差し迫った冬休み後の学校授業で。県立の入試過去問を解く授業です。時間を決めてみんなで解くのは有益なのですが、解答解説も、また特にこの社会の先生も、解答棒読みでツマらないんですよ。社会なんて、さっさと一人で答え合わせした方がいいです。みんな退屈そうに聞いています。退屈まぎれに、トモカさんは、ふと隣の席のモモさんを見ると、真剣、というか、ココの箇所の解説になって、なんだか怒っている風です。で、キっとなって、ツマんない先生に質問します。

 モモ「先生、キプロスって、どこの海にあるんですか。」

先生「え? キプ...、の海...、えぇっと、ははは...」

モモ「1.に『水揚げ』って書いてあるんですが、『養殖』だと船で海から獲ったのと違うんじゃないですか。マグロは回遊魚じゃないんですか。栽培漁業と違うんですか。キプロスに養殖場があるって意味ですか。この水揚げって単語どういう使い方なんですか。」

先生「え? 水揚げって...、えぇっと、ははは...」

モモ「だいたい、マグロのラベルのこの値段、100gで598円って、高すぎませんかっ!? 入試をつくる先生たちって、日頃からいつもこんなものばかり食べているんですかっ!? (怒 」

 クラスのみんなは、くだらない授業の眠けも一気に吹き飛んで、「ワハハ!」「そうだそうだ!」「高けぇ、あり得ねぇ!」などと、ふだん勉強しないワルい男子まで、モモさんを応援するかのように、爆笑したり机をたたいたりして盛り上がります。

 勉強不足で百年一日のように同じ授業をする威圧的な化石化公務員の先生は、「静かにしろ!」と逆切れします。みんなは、静かにします。先生の負けだってことは、誰の目にも明らかです。