2023/07/12

■ まなぶ - 「決意」

Le Lour de France ; étape de montagne

今日の「英単語を書く」は、1101-1200までの例文でした。

今日の例文 1144: The tennis player herself said that her success owed more to determination than to natural talent.

自分の成功は、持って生まれた才能よりも、決意によるものだ、と、そのテニス選手は自ら語った。

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この例文の言葉って、人生で運命の強い一撃に打たれ自ら大きく進路を変えた人間でなければ、まるっきりピンとこないひとことではないでしょうか。よくこのような例文を置こうと思ったものだな、と、この単語集で、最もこころ打たれた例文でした。

スポーツにかぎらず一般に言えることだと思います。が、スポーツの場面がやはり理解しやすいです。今の状況を認識して、これを敢えて打ち破るには、「決意」が必要だと思います。

私はスポーツ観戦の醍醐味を知らないつまんないヤツなのですが、自転車競技のうち、競輪などのトラック競技ではない、一般道を閉鎖して行うロードレースに、ここ40年間ほど、チョっと興味があります。日本ではなじみのない競技ですが、欧州には「三大グランツール」という、自転車ロードレースの頂点に立つ競技があります。とはいえ、私などは、TVも映像も見ず、少年時代から自転車専門雑誌で、興奮の瞬間から1カ月も遅れて活字となる競技結果と雑誌記事だけを垣間見ている程度。

このグランツールのうちの例えば毎年今月7月開催のツール・ド・フランス。これを5連覇する偉業を成し遂げたのは、110年の歴史で2名。うちの1人のアシスト役だった若い選手に雑誌がインタビューして、「彼(キャプテン)の強さは何に由来すると思う?」と聞いたところ、いつも身近についているそのアシストは、「『決意』だよ。いや僕が言える立場にはないけど、感じるんだ。彼の『決意』だよ。」

 また別の話ですが、1936年のベルリンオリンピック。ナチス政権の権威を世界に見せつけるためのナチス祭典と化した分厚い応援軍団の中で、水泳平泳ぎ女子200mで、前畑がデッドヒートの末ドイツのゲネンゲルを下して優勝しました。「前畑がんばれ」と絶叫のみ放送し実況中継の責務を放棄して立ち上がって応援したNHKの放送も有名です。後に、彼女は、「優勝できなかったらと考えた瞬間がありましたか」という問いに「死ぬつもりでした」と迷いなく即座に平然と答えたと...。命と引き換える『決意』だったのですか...。

このような話は、スポーツ界には、枚挙にいとまがないでしょう。スポーツが私たち一般の人間に、希望と強さを与えてくれる良い存在であってもらいたいです。

とある都心の旧帝国大学の合格発表の日。いまどきはオンラインで合格発表を見る人が多数派ですが、それ以前は、大学に来なければ結果はわかりません。生徒やその家族のみならずマスコミや学生の「胴上げ実行委員会」まで出現してごった返す中、とある学生ボランティアの集団が出て、その熱狂的な群衆をかきわけて思いつめた蒼い顔をして去ろうとする若者を見つけ、その手にチラシをサっと滑り込ませます。そのチラシには「死なないで!」と書いています。内容にはさらに、この大学を落ちたけど有名人著名人になった幾多の名前が書かれていたりします...。臺灣大學やソウル大学校でも同様の話があると、両大学の複数の留学生から聞いたことがあります...。受験生の中に、本当に命をかけた決意をした人たちがいるんですね。その決意のしかたの良し悪しを評価するのは置いて、決意して実行したその瞬間とそれに続く期間って、その人の生涯に、シュガリーな人生を歩む他の同年代の人には経験のない決定的な軸を刻みこむ人生の一瞬ではないかと思います。 

2023/07/11

■ まなぶ - 『半七捕物帳』- 再読したい気持ちにさせる背景描写


今日の「英単語集を書く」は、1001-1100まで例文を書きました。

今日の例文1071: Some say that bribery and extortion are rampant in post-communist Russia.

   共産主義崩壊後のロシアでは、賄賂と恐喝が蔓延しているという人もいる。

… “単語集”がここまで言っていいんですか!?...post-communist直後の10年間はエリ(E)の、さらにその後23年間はプチ(P)の独裁政権ですね。国営企業をタダ同然で手に入れたオリガルヒたちを、Eは癒着によって、Pは恐喝によって、手中に収めてきました。これをすべて許すロシア人。200年前に生まれたドストエフスキーが「ロシア人は長いものに巻かれろという民族性なのだ」と喝破した通りですか、やはり。

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私のような底辺の庶民は、普遍的価値のある文学に、小さな心の安らぎを求めるとしましょう。

そのうち、年に1,2回、思い出して全編を読みたくなるのが、幕末~維新を舞台とする岡本綺堂『半七捕物帳』なんです。

19世紀末の『シャーロック・ホームズ』が最初にして最高の探偵小説ですが、これを範としたのが『半七捕物帳』。日本文学における最初にして最高の探偵小説(?)です。前者には種々の学究的考証を進めるシャーロキアン協会が存在しています(入会希望者は筆記試験採用です)が、後者にも「ハンシチアン」が存在するんだそうです。さもありなん。

ストーリー(落ち・プロット)はもうわかりきっているのに、どうして再読味読するのでしょうか、特に探偵小説なんか。同様に、考えてみると、寄席に通う人というのは、古典落語のストーリーが知りたくて行くはずがないのですが、なぜお金を払って聞きに行くのでしょう。いや、それはすべての文学作品に、敷衍すれば、音楽・美術など全ての古典作品に共通する疑問です。ま、答えは置いておくとして...。

 「また読もうかな」と思って『半七捕物帳』に手を出すのは、最近、私は、「江戸情緒を感じてみたい」という、妙な気持ちがそうさせるようです。過日(7/6)に書いた「手塚マンガの背景」に、やはり似ています。

『半七』と、二匹目のどじょうを狙った『銭...』との大きなへだたりが、江戸情緒の描写の有無・巧みさです。

『半七』のほかに、再読味読する作品のなかには、そういえば、同じ動機で手を伸ばしているものがあるんじゃないかな、と、ちょっと振り返って考えました。

簡単に引用してみましょう。漱石『猫』、鷗外『高瀬舟』もどれも著作権の心配はもうなさそうです;

そうですね、さしあたり「春の宵」の情景を思い出して選んでみましょう。


綺堂 『半七1 - お文の魂』

...閉め込んだ部屋のなかには春の夜の生あたゝかい空氣が重く沈んで、陰つたやうな行燈(あんどん)の灯は瞬きもせずに母子の枕もとを見つめてゐた。外からは風さへ流れ込んだ氣配が見えなかつた。お道は我子を犇(ひし)と抱きしめて、枕に顔を押付けてゐた。


漱石 『猫』

...花曇りに暮れを急いだ日は疾く落ちて、表を通る駒下駄の音さえ手に取るように茶の間へ響く。隣町の下宿で明笛を吹くのが絶えたり続いたりして眠い耳底に折々鈍い刺激を与える。そとは大方朧(おぼろ)であろう。...

...春の日はきのうのごとく暮れて、折々の風に誘わるる花吹雪が台所の腰障子の破れから飛び込んで、手桶の中に浮ぶ影が、薄暗き勝手用のランプの光りに白く見える。


鷗外『高瀬舟』

...さう云ふ罪人を載せて、入相(いりあひ)の鐘の鳴る頃に漕ぎ出された高瀬舟は、黒ずんだ京都の町の家々を兩岸に見つつ、東へ走つて、加茂川を横ぎつて下るのであつた。...

...いつの頃であつたか。多分江戸で白河樂翁侯が政柄を執つてゐた寛政の頃ででもあつただらう。智恩院の櫻が入相の鐘に散る春の夕に、これまで類のない、珍らしい罪人が高瀬舟に載せられた。


「春の宵」は、読むあなたにしてみれば、あたたかくゆるやかな気持ちになろうかという暗示をかけられます、ただ、夕闇が迫ることから、そっと緊張感もあなたの襟首から差し込む、そういう気分を、さらに「江戸情緒」という背景に重ねて、読むあなたを包みこもうとする巧妙な技巧のように思えてきます。

 いずれもそれが、情景を描写するのが主たる目的ではなく、お話のごく些細な背景のためにわずかな言葉を費やすに過ぎないのですが、特に漱石と鷗外は、さりげないながら、じつに周到に1ページ程度おいた後に、春の宵の江戸風情をリフレインします。

思い返してみれば、噺家の中にも、桂米朝(人間国宝)などは、筋を急ぐだけでなく、上方落語の鳴り物入りとはいえ、季節の情景描写の織り込み方もじつに見事なものがありました。

これに身を任せようかなと意識したうえで、文豪の手のひらの上でいいように転がされるのを楽しむというわけなんですよ。これが私にとって、再読味読の楽しみです。

2023/07/10

■ なおす - 万年筆を洗浄乾燥


昨日今日の「英単語集を書く」は、0801-0900 & 0901-1000まで。

昨日の例文880: It is not always easy for psychiatrists to decide whether a patient is sane or not.

   患者が正気なのかどうかを精神科医が判断するのは、必ずしも簡単ではない。

今日の例文945: In general, psychopathy is used to refer to a mental illness in which a person behaves in an antisocial way.

   一般に、精神病質とは、人が反社会的な行動をする精神病を指して用いられる。

…こ、困った話ですね…。

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万年筆は、毎日使っています。10本程度あるうち、3,4本に常にインクを入れて使っています。使うものは、時期によって入れ替わります。もっぱらペン先の太さによります。ある時期に細めのもの何本かを何日か何か月か続けて使うと、そのうち太字でのびのびと書きたくなるので、手元のものが太字系に入れ替わっていたりします。すると、太字のおおらかさの反面、もっと精密さが欲しくなり、細字系に…。ひと様に提出提示する文書には使わないので、そんな脈絡のない使い方で、書き味を楽しんでいます。

使っていないものは、その間に洗浄して乾燥しておきます。使うインクが、頻度順に、古典・顔料・染料の3種類すべてなので、まめに洗浄しています。パイロット製品の場合、この1年間に3回ほど、メーカーに洗浄と調整に出しました。万年筆も他のすべての道具と同じで、ふだんは自分で手入れ(洗浄)をし、年に1回くらいは本職によるメンテ、というつもりです。この点、国産3大メーカーの保守受け入れ体制は、良心的です。

 「入学祝に万年筆」という風潮は、もう絶滅しましたね。私が中学の頃は、まだありました。教室でも使っている同級生がふつうに見られました。そういう最後の世代だったと思います。高校に入ったら、使っている人は、私以外には、同級生300人のうちたった1人だけでした。この間にシャーペンやマークシート式試験が爆発的に普及した時期だったり、学校の雰囲気の違いもあると思います。で、その1人のSくんの使いぶりが、ごく自然で知的な雰囲気が漂っていて、家庭環境や社会階級が違うのであろうと思いました(妙なコンプレックスの入った妄想かもしれません)。

 英文880では、なんだか精神科医はたいへんそうです。つい、Sくんが判断に苦しんでいる姿を思い、その苦労がしのばれます(って、この英文を見て半分心配半分揶揄していますか?)。

一般に、サイコパスとは、授業が意味不明で生徒に無理な課題を強いる進学校の高校教諭らを指して用いられる、という定義を、「そ、その先生はどうしてサイコパスというあだ名なんですか」に対する高校生の方々(複数)の解説として教えてもらいました (私は高校職員でもなく高校生の親でもなく、いずれとも利害関係はないのですが、とある機会に…。)。