■ 昨日の続きで失礼します。「片流れ」屋根の、雪国での適性の話でした。
■ 昨日の、2軒隣の家屋。先ほど昼前から雪下ろしをなさっています。まさかこのサイトを昨日ご覧に...ってことはなさそうですが。連日の降雪で必要を感じたのでしょう。どうぞお気をつけて。
■ 昨日の画像の家屋は、上も下も、いずれも「切妻」屋根です。
■ 形状は、まるで本を開いたままページ見開きを机にかぶせたかのように、断面「へ」の字形状の、2面からなる屋根の面構成。中央の尾根を"棟"あるいは"大棟"といいます。
■ シンプルな構造ゆえに、施工費が低コスト。棟が1本なので、水はけがよく雨漏りしづらく、メンテナンス性もそのメンテコストも良好。天井裏の通気性が良く、ついでにソーラーパネル設置方向も面積も広く確保できるようです。
■ 欠点としては、住宅建築にもっともよく採用されているので、没個性で、特に平屋の民家だと、高級感に欠ける、と言った程度でしょう。
■ 他方で、日本の住宅建築で、特に近時、雪国でもよく見られるようになったのは、「寄棟」造りでしょう。
■ その特徴は、何といっても、醸し出す重厚感や高級感の雰囲気が歴然です。トップ画像のとおり、宮殿や仏閣といった歴史的建造物にも重用されています。
■ 古来から中国や日本、また西洋でも、風格ある巨大建築に用いられ、見るものを圧倒します。
■ 一方向から受ける風に対する面積を低減するため、耐風性に優れる点もあるそうです。
■ 思うのですが、雪国には不適な面も...。
■ かつて20年ほど前、わが家の出入りの大工の棟梁Tさんが、すぐ近所に建築中の「寄棟造り」の「平屋の大邸宅」を指さして、「アレ、冬はどうすんだろうな?」と言っていたのを覚えています。そのときには私には意味がわかりませんでした。
■ 屋根の「尾根」にあたる"棟"は、「切妻」が1本で済むのに対して、この「寄棟」は、中央の水平な "大棟" 線のほかに、その両端から2本ずつ派生する "隅棟" が4本、計、最低5本の "棟"線 が必要です。ゆえに、初期の建築コストが飛躍的に高額となります。
■ "棟"は、屋根の面と面の継ぎ目にあたり、風雪の攻撃にさらされて破綻するメンテポイントでもあります。切妻構造に比べると、飛躍的に多くなります。加えて、天井裏通気性は他のどの構造より劣ります、 特に、家屋内暖房で湿る屋根雪と天井裏湿気を冬のあいだ数か月間たくわえる雪国の屋根としては...。
■ また、今ここで言いたい最大の欠点が、「屋根雪が、すべての壁を取り囲むように、四方八方に落ちる」点です。
■ ただし! 考えてもみれば、「寄棟造りの平屋の大邸宅」は、その施工主となる客層といえば、年輩の富裕層です。
■ 自前の住宅建築資金は潤沢にあり、あまたある周囲の住宅と一線を画すような、自分にふさわしいゆとりと風格の表現を希望する一方で、老後のことを考えると、階段の上り下りは避けたい...という発想ではないでしょうか。
■ 対照的な住宅購入客層として、たとえば、"若い共働き夫婦"像が挙げられそうです。格安で実用的な家、すなわち、無落雪屋根をもつ、窓が小さい、高気密・高剛性・コンパクトなサイコロ型の2×4住宅"を、"30年ローンを組んで"、といった商品がウケるのではないでしょうか。若い彼らには「寄棟造りの平屋の大邸宅」なんて思いもよらない構造でしょう。
■ さて、気づくべきなのは、富裕層であるとすれば、「生涯にわたって、『雪かき』『除雪作業』など、まったく経験せずにすむ社会的身分」であり、自宅建築に際して、雪の苦労や面倒を考慮する必要は無い層でもある、という点です。
■ 自宅の除雪作業は、住まう自分やその家族がする作業ではないし、また、屋根が壊れたら、住宅販売会社や大工に直させる、あるいは家ごと建て直せば良いだけです。
■ だとすれば、寄棟の平屋大邸宅の重厚感は、がぜん、大いに魅力的となりますね!
■ とうぜん私には縁がない世界です。したがって、大工のTさんっ!、施工主が冬に直面する事態のことを心配してあげなくてもよいんですよ!
■ ただ、願わくば、そこの除雪作業を現実になさる労働者の方々の、心身の健康と、辛酸に報われる生活の保障がありますようにと、ほんとうにこころから祈らずにはいられません...。