2024/01/07

■ まなぶ - おじがシェフになったいきさつ - 大学入試センター試験 2016年本試験 英語 第5問


大学入試といい高校入試といい、読んで楽しむのはいいのですが、ここのところ、我ながら性格が屈曲していると思う見方が続いています。たまには、すなおに感銘を受けたお話も、味わってみましょう。

 センター試験にも、たま~にステキなお話がありました。再読しましょう。

 表記の出題を。設問や私のよけいな感想なんかナシにして、本文のみ全文を、私もあなたも、大学入試なんかとは関係ないでしょうから、ざっくばらんな拙訳ですが、よろしければ;

「私がそうたいしたことになるだなんて、誰も思っていなかったよ」と、おじのジョンは、厨房に立ってそう言った。それは、彼が、受賞した4コースディナーをどうつくるか、ボクに見せてくれていたときだった。ボクは大学を卒業したばかりで、このディナーはボクへの彼の贈り物だった。著名なシェフに、自分のために料理を作ってもらっているだなんて、すばらしい気分だった。加えて、ボクがワクワクしていたのは、2,3日後には、彼は、全国的なテレビの料理コンテストである『ザ・ビッグタイム・クックオフ』に参加する予定だってことだ。

おじのジョンが小さかった頃、彼の家族は田舎で暮らしていた。彼の母親は地元の学校で教えていたが、ジョンが10歳のとき、彼女は学校を辞めなくてはならなくなった。というのも、彼女の年老いた母の世話をするためだった。そのときまでは、彼の父親は、優しくて、ジョンや2人の妹たちと遊ぶ時間だってじゅうぶんあった。けれど、請求書は山のようにたまり続け、 一家は苦境に陥った。ジョンの父親は、けっきょく遠く離れた町で仕事を得るしかなくなり、週末に家に帰ってこれるだけだった。

その父親は、仕事のスケジュールが多忙になってきて、しだいに、帰宅すればいつも疲れているようだった。実を言うと、彼は、楽しい人から、しじゅう不機嫌な人に変わってしまっていた。家にいれば、ただ休みたがってばかりだった。ジョンを些細なことで叱るのもしばしばだった。父親に受け入れてもらおうと、ジョンはせいいっぱいやってみたが、充実感などまったく得られなかった。それでついに、彼は父親を避けるようになった。友達とショッピングモールをうろつくようになり、よく授業をさぼるようになった。ジョンの成績は、じわじわと悪くなっていった。両親も先生たちも、彼の将来を心配した。

ある日曜日の朝,ジョンの母親が彼女の母の世話をするために家をあけていた間、父親はテレビのある部屋で昼寝をしていた。妹たちが空腹だったので、ジョンは妹たちのために何か料理を始めた。どう料理したらいいかおぼつかなかったけれど、父親の手をわずらわせたくなかった。

突然、台所のドアがあくと、父親が立っていた。「お父さん、ごめんなさい、起こしちゃって。チェルシーとジェシカがお腹を空かせてて...。ボク卵か何か料理しようと思っていたところなんだ。」 しばし真顔で父親は彼を見ていた。「卵だって? 卵だなんて、今日みたいなすばらしい天気の日曜日のお昼には向いていないよ。 庭で、ステーキを焼こう。」「えっ、本当? お父さんきっと疲れてるでしょう?」 「かまわないさ。私は料理が好きなんだ。大学時代を思い出すよ。アルバイトでコックをしていたんだ。うまいステーキをどう焼くか、教えてあげよう。」

ジョンが驚いたことに、父親は、料理をし始めると、エネルギッシュになった。父親はジョンをそばに寄せて、料理っていうのは、ある意味、理科の実験みたいなものだと、詳しく説明してくれた。「材料は正確に量って、どの食材がウマく合うのか知っておかなくちゃだめだ。それを身につけたら、多くの人を喜ばしてあげることができるんだ。」 ジョンは、父に親しみを感じた。久しくなかったことだった。そのとき以来、ジョンは、家で過ごす時間が多くなった。ふだんから家族のために料理をするようになり、大学に行ってからも、友人たちのためにも料理をした。料理をするといつも幸せを感じた。そしてその幸せ感が、彼の生活のほかの領域にもあふれ出していった。

おじのジョンは、レストランで働きながら大学を卒業し、とうとう有名なレストランのシェフになった。おじはその仕事がほんとうに好きで、懸命に働き、自分独自の特別な技術を磨いた。ついには、独特なスタイルの料理を出す自分のレストランを開くことができた。賞をいくつも得、裕福な人や有名人のために料理を作った。

話をコンテストに戻そう。おじのジョンとボクは、彼が選ばれたことで興奮していた。でもなお、彼は本当に胸を打つことを、ここ、厨房で、ボクに打ち明けてくれた。「いいかい、マイク」とおじ。「『ザ・ビッグタイム・クックオフ』の出演者としてテレビに出られるのは、スリリングな話なのは確かだ、けど、私がいちばん幸せに感じることは、君と、つまり、自分にとっては最も大切だと思う人の一人である君と、ここに立って、そして、おしゃべりすることだよ、二人で腹を割ってね。それは、ずっと昔、夏のある晴れた日に、父が私にしてくれたのと、ちょうど同じだ。そしてそのことが、まさに私の人生をまるで違うものにしてくれたんだ。」