2023/10/21

■ まなぶ - 万年筆を始めた私-1


これまでの間に直接聞いた複数のステキなお話をあわせて、お一人の方の体験としてまとめてみます(;^^w

「私(わたくしと読んでもらいたい)は、退職を機に、使ったことのない筆記具『万年筆』を購入しようかと、ふと遊び心で、思った。

「今の状況としては、職場を終えた後で、時間的に経済的にもだいぶゆとりがある。住宅ローンも終わってだいぶたつし、クラウンの乗り替えやゴルフクラブセットの買い替えなど費用のかかるものはこの1,2年で済んだ。離れて家庭を持つ子や孫も手がかからない。今の趣味のほかに、さらに心の余裕も出てきたと言ってよいので、日常生活に多少の遊びがあっても良かろうと思っている。

「万年筆というものは、私の学校時代など、周りに自慢げに使っていた同級生もいるようだったし、また、万年筆ブームとやらも長く続いているようだが、しかし、あのむき出しの金ピカの金属の先端が、いかにも大げさで嫌味な印象だった。また、職場の部下たちが話題にしていたこともあるが、職場の文書には使ってはならない非実用品であり、職務遂行には不必要なぜいたく品で、軽薄な気がした。私はそのようなものにかかわったことはないし、彼らをうらやましいと思ったことなど、一度もない。

「だが、今後の私の生活を豊かに彩るのに、角度によって輝くペン先など悪くはないなと感じるようになった。ゆとりはあるので、少し良いものを買いたい。情報過多の現代、わざわざ年下の部下たちに頭を下げてまで意見を聞く必要は感じない。ネットで『万年筆 初心者』など、ちょっと調べればすぐ知識は得られる。

「初心者とはいえ、今の私にふさわしいものがよい。有名なモンブランやペリカンから始めるのがよいだろう。私のロレックスと万年筆は合いそうだ。カフェでメモしたり図書館で調べものなどする自分を想像すると、実に年齢や立場にふさわしい気品が漂う。

「さっそく『モンブラン』を検索すると、製品の番号によって値段がだいぶ違うが、画像はどれを見ても全く同じにしか見えない。この形のコピーはどこにでもありそうだ。だのに、どれも想像していたより極端に高額だ。どうやら宝飾品としての位置づけらしい。使うか使わないかわからないような、たかが真っ黒けなプラスチックの筆記具に、この金額はない。私は理性的な方だから、やめておこうと思う。

「『ペリカン』も聞き覚えがある。滑(すべ)らなそうな機能を表すわかりやすいが変な名前がついていて、赤青緑の縞模様から松竹梅を選ぶようだ。ところが、自慢気な若者たちのウェブサイトで、不穏な記述がある。洗って水にふやけて使えなくなったとか。冗談はやめてもらいたい。

「イタリア製品はさすがに気品がある。代表的なのはオーロラみたいな名前のだ。買うつもりで何度かサイトで探していたが、あるとき、グーグルに『オーロラ』と入れても出ない。どうも「アウロラ」と変な読み方をするようだ。そこで『アウロラ』と入れてスペースを押した途端『アウロラ_折れる』と妙なセットがヒットする。『ラミー_折れる』というのもある。不審に思い、導かれて読み進むと、購入者によるほんとうに折れた画像が次々と、また、そんな噂の火元を消そうと躍起になっているいくつかの販売店の記事があり、いっそう不信感がつのる。あぶなかった。やはり検索して下調べをする私の判断は、賢明だったというべきであろう。

「そもそもどんなものでも、国産品がいいに決まっている。質実剛健で賢い消費者としては当然だ。

「国産といっても、メーカー名だけ見ては、日本の会社か外国の会社かわからなかったが、『日本3大メーカー』があるようだ。しかし、どれを見てもモンブランと同じデザインだ。

「迷った場合は、業界最大手の物に限る。クルマだって、トヨタに限るのと同じである。どうもパイロットというメーカーらしい。

「初めて使うおすすめは、各種サイトに共通して『カクノ』だという。何といっても小学生を視野に入れた安い価格なので、まずは謙虚に従い、慣れたらすぐグレードアップすることにする。この謙虚さが私の取り柄である。休日に妻につき合わされて出かけた地元の大きなモールの文具ショップで、シックな黒をすぐに購入できた。

「初めての万年筆を、さっそくパッケージから出す。ボールペンのようなノックはいらないようだが、代わりにキャップを取って、一枚板のような銀色の金属の板を露出させて、書いてみる...が...

「なぜか書けない。私は筆圧がかなり強い方なのだが。ジェットストリームを使うのと同じく強く押してみる。先端の、紙と接触する金属の板の中心が、最初から割れているのだが、不安定にしなるだけで、紙に傷だけがつく。値段も安いし、やはり不良品か。いっそう強く押したら、しなっていた銀色の先端が、ぐにゃりと曲がった。元に戻らない...。どういうことなのか...。国産メーカーの安物は実は中国製などではないのか。当たり外れがありそうだ。やはりきちんとした本家本元のモンブランとかでないとだめなのではないだろうか。