2025/09/18

■ まなぶ ■「中学生レベルの知識」って!?

中学校検定教科書
"あたらしい社会-歴史"
東京書籍

 「中学生レベルの知識しかない」「中学生レベルの知識にとどまる」と、たまに、目にしたり耳にしたりします。

 「低いレベル」のつもりでおっしゃっているの?

 この表現を見聞きするのは、英語と歴史・公民分野なんですが...。

 さすがに、中学校(都立高校県立高校合格レベル)の数学や理科1&2分野を蔑んで「中学レベルの数学知識しかない」「中学レベルの物理化学生物地学の知識しかない」と豪語する人は見かけないです。

とある"投資解説マンガ"より
無断で借用...

 "中学英語レベル"って...。ダメなレベルのことなの?

 あの、そのレベルを縦横に駆使できるなら、アメリカで日常生活を送る分には何の痛痒も感じないのでは? 

 基本的な英単語2,000語で、日常会話なら、90%近くをカバーするようですよ。

TOEICは2,000語で9割をカバー
🔗 English Club (外部リンク)

 最も著名な英英辞書の1つである"Longman英英辞典"は、辞書掲載の23万項目すべての英単語の説明文に、2,000語程度に絞った"基本英単語"のみを使っています。


 中学校の英文法は、ゼロから始めて3年間で関係詞や複文構造を含む直説法の全てのみならず、仮定法なら仮定法過去まで学ぶんだし、その語彙力は、例えば検定教科書の1つ三省堂"New Horizen"(令和7年2月)では、3年間で1,700語に及びます。

Google AI 検索

 それじゃだめなの? 日本の中学レベルの英語力さえあれば、現地での日常生活も、大学留学でもビジネスでも、そう困らないのでは?...もしホントに使いこなしているならば...。 アメリカの大学で英米文学を専攻するとかアングロアメリカン法を学んで現地でバリスター弁護士やソリシター弁護士になるとかいうつもりじゃなければ...。

 ただ単に、積極的に使いこなせないってことでは? それは中学教育が低レベルなわけじゃなくて、あなた個人が...。

 歴史や法律経済などの公民分野でも、いかにも"中学レベル"を、低レベル知識の喩えとして見下しているような表現が...。たとえば;

"理系の日本史音痴ですので江戸時代の将軍の評判などは中学生レベルの知識にとどまっていましたが、さすがに「犬公方」というのは知っていました。「生類憐れみの令」を出して人間よりも犬猫のほうを大事にした愚かな権力者、というイメージです。"

という、ネットの個人ブログによく見かける表現。

 あの、今の中学校では、そんなラノベや通俗歴史小説みたいな珍妙な教え方や"犬公方"という蔑称は、少なくとも教科書レベルでは存在しないのですが。

 トップ画像は、検定教科書の1つ東京書籍"新しい社会-歴史"(令和7年2月)。

 「生類憐れみの令」という1つの法令は存在しなくて、関連した社会保障系政策に基づく諸法を、被統治者側が象徴的にまとめて呼んだ俗称です。


 1980年代半ばから、日本史の学会やその解釈は、非常に多様な要因(ITの普及や資料の理化学的解析技術)により爆発的な展開を遂げているようです。初代から3代の将軍の武断政治が終焉し、5代の彼の頃から社会保障的見地で、また、直後の正徳の治や元禄文化頃から貨幣経済的見地で、この中央集権体制を見直す流れが、現在の中学検定教科書の表現の背景にあります。

 「人間よりも犬猫のほうを大事にした」「犬公方」という"バカ殿"像は、わかりやすいステレオタイプで俗耳に入りやすいのですが、この"中学生レベルの知識"で高校受験に臨んだとして、合格すると思いますか。幕藩体制をアンシャンレジームと位置付けて憎んだ大日本帝国による歴史教育(戦後しばらく残存した"帝国史観")ならどうだったかはわからないのですが、少なくとも、現在の"中学生レベル"では無い、のは確かです。

「中学生レベルの知識」という表現を使う人って...。