2023/10/06

■ まなぶ - ミミの初めてのデート ; 大学入試センター試験-英語1999本試験第6問


軽い小説を読んで楽しんでみましょう。とはいえ、大学入試問題です。だのに、軽いとか楽しむとか、受験生に対して不謹慎なことを言って、ごめんなさい。ま、しょせん大学受験とは縁のない一般庶民が、低レベルで読んで楽しむだけですので、大目に見てください。

 1990年の第1回センター試験から2007年までは、センター試験の英語問題の最終問第6問目は、英米文学風な小説やお話(の要約版)でした。その後、2008年から最終回の2020年まで、おそらく日本人出題者によって書かれ入念に推敲を重ねた濃密な評論文でした。いずれを手に取っても、私のような外野席から見物するだけの庶民にとって、珠玉のような英文ばかりです。

 ひとまず、読んでみましょう...と言っても、英文をそのままここに写し取っても読みづらいかもしれないので、私の拙い訳で恐れ入りますが、今日はサっと内容を見るにとどめましょう。

出題者の、素材選定・要約・単語差替などの労力に、敬意を表します。

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「行ってくるね。」ミミは、母屋のとなりにある家業の食料品店にいる母親に声をかけた。初めてのデート。ロバート ローヴァーが彼女をダンスに連れて行ってくれるため、ちょうどやってきたところだった。こんなことになるだなんて、彼女にはほとんど信じられなかった。待っている間、ずいぶん長く感じられたが、何を着ようかと何度も何度も考え,やっとお気に入りのブラウスを着たのだった。今、とうとうロバートがやってきた。彼女の目には彼が麗しく映った。髪にはきれいに櫛を入れてあり,今まで見たことのない黄色いセーターを着ていた。ステキだ、とミミは思った。

2人が玄関を出ようとしたとき、ミミの母親が店から顔を出し、ロバートに挨拶をした。それから彼女は白い紙で包んだ箱をミミの手に渡した。

「サリー トンプソンさんへのリンバーガーチーズだよ、ミミ。輸入物のリンバーガーが、今日、1ケース入ったんだよ。サリーに、今夜、お前が届けるからって約束したんだよ。」

「今夜!?」と、ミミはチーズに目を落としながら、おうむ返しに言った。「明日じゃだめなの?」

「悪いけれど、サリーに約束したんだよ。」母親は言った。「じゃ,2人とも楽しんでおいで。」

「まあいいわ。ロバート、行きましょう。」と彼女は言った。

生まれて初めてのデート。ロバート ローヴァーとの初デート。それなのに、大きな、きついにおいの、やっかいなチーズの箱がくっついてきたのだ。彼女はチーズのことは忘れようとした。いま、私はここにいて、ロバート ローヴァーと一緒にダンスに行くところなのよ、と自分で自分に言い聞かせた。彼女は彼の方をちらっと見上げた。

「そのチーズ、におうね。」と彼が言った。

彼女は、チーズを、彼から最も遠くなるように持ったのだが、そのにおいは、腕を這い上がってくるかのようだった。

2人はモンカーム通りに出た。ミミは番地は知らなかったが、以前その家の前を通ったことがあるので見ればわかると思った。「あ、ここだわ。」彼女は呼び鈴を鳴らしたが、返事がなかった。すると、彼女は呼び鈴の下の名前がトンプソンではないとに気づいた。違う家に来てしまった。まぁ、困ったわ、と彼女は思った。彼女はコートのポケットにチーズを入れ、ロバートのところへ戻った。

「違う家だったみたい。」と彼女は言った。「きっとここに住んでいると思ったんだけどな。」

「それで、僕たちどうしよう?」とロバートが尋ねた。

ミミは唇をかんだ。今から家に持って帰ることもできなかった。チーズは一緒にダンスに持って行くしかなかった。「行きましょう。」と彼女は言った。とてもみじめで、他に何を言えばいいか思いもつかなかった。彼女とロバートは、チーズのひどいにおいと同じくらい重苦しい沈黙の中、ダンスホールまでの残りの道のりを歩いた。

ダンスホールに着くと、人でいっぱいで、コートを掛ける余地もなかった。ミミは手を洗いたかったが、ロバートは彼女をまっすぐダンスフロアの方へ引っ張っていった。

ミミはロバートがまるでスズランのようないい香りをさせているのに気づいていた。で、あたしの方はと言えば...、リンパーガーチーズのにおいだ...。

ミミは、心を込めて踊った。ロバートは目を閉じていた。たぶん、あたしとこのにおいのことを忘れようとしてるんだわ、とミミは思った。

少ししてからスナックのカウンターに行った。飲み物を飲んでいるとき、ロバートの視線は、ミミの頭越しだった。うんざりしているんだわ、とミミは思った。ああ、ほんとうに今夜は大失敗だ。彼女のポケットから立ち上る強烈なにおいは、刻一刻と強くなっていった。

一人の赤毛の少年が、立ち止まってロバートに話しかけた。「誰だよ、ここで靴を脱いだ奴は?」と少年は言った。

ミミの心は沈んだ。

「何か、におうぞ。」赤毛の少年は言った。

ミミは息を止めた。ロバートの方を見ることができなかった。

「別に、僕は何もにおわないけれど...」とロバートは言った、「君はどう、ミミ?」

一瞬、彼女は、自分の聞き間違いだと思った。ロバートは、彼女に、特別なふうにほほえみかけていた。彼女はびっくりして彼を見つめた。「いえ、私も、何もにおわないわ...」やっとのことで彼女はそう言った。

「きっと君の気のせいだよ」ロバートはその少年に言った。

ミミは自分の耳が信じられなかった。それから彼女はワっと笑った。なんてことだろう。ロバートが自分をかばってくれているんだ。素晴らしいことだった。チーズが、急に、2人だけの秘密になった。

ミミとロバートがダンスホールを出たとき、通りは静まり返っていた。彼らは合わせて踊った曲をハミングしながら、身を寄せ合って歩いた。いまや月は高く、薄く削ぎ切られ、楽しげな小舟のように、彼らの頭の上に揺らめいていた。

「チーズのこと、ごめんね」とミミは言った。

「チーズだって? 」ロバートは微笑んだ。「チーズって何のこと?」