2024/03/16

■ きく - シューベルト / ウーラント 『春のおもい』D. 686 (Op.20-2) - O. ベーア & G. パーソンズ

Schubert Lieder / Olaf Bär & Geffrey Persons ; EMI Classics 1993

大学や高校の入試問題も、この場で、おもしろおかしく揶揄して楽しんでいますが、初めて見た際には、震えながら答えを探しているわけで、大学の偉い先生方がご自分で何度も読んで「あ、ココを空所補充問題にしてやれ」なんて思って作った設問など、18歳の優秀な若者ですら1回読んだだけじゃ正解できない人も多いことですし、優秀でない若者でない私が誤った答えを出すのは日常茶飯事です。その後、よく練られて印象に残った入試問題なら、2回、5回、10回と読み直してみると、次第にオリジナルの筆者の言いたいことが少しわかり、それだけ出題者の解釈のウマさや乖離や作問の隔たりに次第に可笑しさを感じ取ることができる気がします。

 まったく同じ話で、本も音楽も絵画も、1度読んだり聴いたり見たりしただけでは、2回目の感想は必ず異なる、しかも前回の自分に批判的になったりするので、「印象」は持つのですが「表現」するのをためらいます。10回目に触れたら、前回9回目に触れた自分の気持ちとはやはり違います。後の方が、より多くに気づき、より進歩し、より利口に賢明になっている、とは限りませんが...。書道華道や楽器などの芸や習い事を何年もなさる方は、いや、建築作品やプログラミングなどにしても、その模範・お手本・モデルに対して、そう感じることがあるのではないでしょうか。

 だから、「課題図書の読書感想文」などという宿題はニガテです(いまさら学校時代の言い訳か)。特に、音楽は、作曲家の表現を演奏家が表現するわけですので、私にとっては、10回や20回聴いただけでは...。同じ作品を、何度読んでも何度聴いても何度見ても、う~んなるほど、と新しく思うことはあります。

 次々と本を読み音楽を聴き、初めて読んだ本初めて聴いた演奏についてすぐそれを表現でき、「コレってこうだな」と述べたり「コレいいよ」と薦めたり、などというヒトは、優秀な人であると自他ともに認めるでしょう。が、私には永遠にできないマネのようです。「とりあえず10回読もう、ひとまず100回聴こう」が、本とCD/LPに対するポリシーでした(カセットテープの時代から; 手持ちの数少ないテープの録音を上書きする場合のポリシーだったんです)。ま、トロい自分を受け入れるしかないです。

 昨年来、ここで生意気にも感想を述べてきた音楽作品は、「とりあえずとっくに100回以上程度は聴いた」ものですが、その後聴いても、やはり思いを新たにします。

 そのうちでも、何百回目かに新たに聴いて、さすがにだいぶ気持ちが落ち着いてきたものも多いです;

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 春が近づくたびに、2月くらいからまたぞろ聴き始め、ゆく春を惜しむように6月くらいまで聴いている曲の一つが、コレだったりします。

 ディースカウ & ムーアの演奏がいいに決まっているよなぁと、カセットテープが擦り切れ、カセットデッキヘッドが磁性体粉まみれになった少年時代の摺り込みもあるのですが、すぐ手にとって聴きやすいCDで保有しているのは、これももう30年も毎年欠かさず聴いているベーア (バリトン) & パーソンズ (ピアノ) 盤です。

  70年代初頭の古いディースカウ盤が、クッキリさわやかな発声やひんやりとした空気感をもつ印象があります。ヘッドフォンで改めて聴き比べれば、音が良いのは90年代のベーア盤のCDに決まっているのですが。もちろん、録音技術の問題ではなくて、やはり少年時代の耳と希望、毎年永遠に満たされないけれど、毎年希望を膨らませるこの曲特有の思いが、そういう印象をつくってしまったのでしょう。

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  シューベルトとシューマンのリートについては、私がしゃべればしゃべるほど、あなたから遠のいていくと思いますので、訳してみるだけにします(下のドイツ語は新正書法ではないです。ドイツ語句末の句読法は、EMI CDC 7 54773 2 ライナーノートのままです)。

  和訳も、ことばによるよけいなおしつけですが、いま読んでくれている方が、曲とその和訳に、そしてよりすてきな演奏に、あらたに出会ってくれることを願っています;


やわらかなそよ風が目をさまし、

昼も夜も、さやぐ音をたててふきわたり、

この世のすみずみにまで、息吹をかよわせる。

あぁ、さわやかな香り、あたらしい響き!

さあ、あわれなこの胸も、こころをとざしていないで!

いまこそ、何もかも、移り変わるときだ。


この世は日ごとに美しくなり、

この上どうなっていくのか、はかりしれない。

花はとめどもなく咲きつづけていく。

あのいちばん遠い、いちばん深い谷も、花ざかりだ。

さあ、あわれなこの胸も悩みを忘れよう!

いまこそ、何もかも、移り変わるときだ。


Die linden Lüfte sind erwacht,
Sie säuseln und weben Tag und Nacht,
Sie schaffen an allen Enden.
O frischer Duft, o neuer Klang!
Nun, armes Herze, sei nicht bang!
Nun muß sich Alles, Alles wenden.

Die Welt wird schöner mit jedem Tag,
Man weiß nicht, was noch werden mag,
Das Blühen will nicht enden;
Es blüht das fernste, tiefste Tal:
Nun, armes Herz, vergiß der Qual!
Nun muß sich Alles, Alles wenden. 

...L. Uhland  "Frühlingsglaube"