2023/07/27

■ まなぶ - 自転車部品のデザイン


※ Cathédrale Notre-Dame de Reims    /    Campagnolo Record Carbon 11 Ultra Torque Crankset

これまた数十年来このかた思い続けてきたことです:

自転車の部品で、ロードレース競技用の2大メーカーは、長年、日本のシマノとイタリアのカンパニョッロです。近年はアメリカのサードパーティが擡頭しつつあります。

戦前にカンパが発明した競技用部品の変則機のメカニズムを、戦後にシマノが模倣してチャチな製品を作り、長年かけて品質を磨き、現在では、性能的には互角か、シマノがリードか。

設計・意匠段階における力学的解析技術や製造段階における金属加工精度がモノを言う製品です。この点で、高度経済成長期のエンジニア国家日本の雰囲気のもと、数百年来の刀鍛冶に起源をもつ大阪堺の金属精錬鍛造業者シマノのお家芸だったことでしょう。地道な努力の膨大な積み重ねと昇りつめた高みには感動をおぼえます。

ピンとこない話でしょうが、まぁぜひ一度、シマノのロードバイク用コンポのフラッグシップであるデュラ・エースをフル装備したチャリを体験してみてください(いまでは100万円クラスか…チャリなのに)。私が初めてデュラ・エースに乗ったのは1993年のことですが、金属パーツが組み合わされてカチャカチャ動くはずの自転車という物体が、乗ったその瞬間、水棲生物にでもまたがって深海を行くような、ヌメリとした異様な次元のスムーズさを感じて、飛び上がるような衝撃でした。

ただ、人類の歴史と共にある金属加工は、日本だけが特に優れているはずがなく、中国やアメリカや欧州など、もちろん軍事産業に秀でたエリアでは当然もっている技術です。平和な世界になって軍縮が進んだここ数十年に、軍事産業技術は、高付加価値のつく宇宙開発の分野とスポーツ器具の分野に進出して来た経緯もあり、競技用自転車部品のジャンルでは、カンパとシマノの二大巨頭の図式も揺るぎつつあるところです。

コンピュータで解析・設計をしている現在では、黎明期とは比べ物にならない量のデータを駆使して、素材や意匠の可能性を追求していますので、そのプロダクトデザインは、発表になるたびに、あっと言わせるような進化を遂げつつあります。他方で、2世代も前(十数年前)のデザインは、完全に過去の遺物でしょう、競技選手にとっては。

ですが、私たちアマチュアのエンドユーザという観衆にとっては、限界性能やその蘊蓄もおもしろいのですし、手に取って使う選択肢が新旧に広がって、それがまた楽しみでもあります。

自転車のクランクギヤセット部分の話ですが、現在のデザインは今は置くとして、1世紀近く、その基本形だったが、もはや過去の遺物となった「5アーム」デザイン。5本のアームに、競技者が自分に合った歯数のギア板を取り付けて使うのですが、数十年来、世界中が、カンパの5アームデザインを模倣してきました。私も中学3年生の時以来、そのギア板をつけては外しの作業をしてきました。そのつど、その意匠が、うつくしい曲線で構成されているのを意識し、記憶にも、また手の感触としても、ずっと残っています。

で、思うのですが、カンパのこの5アームデザインは、教会建築のモチーフが現れているのではないでしょうか。

画像右のカンパ・カーボンレコードのクランクセットですが、画像左の、おととい以来挙げている、ロマネスク風の尖頭円に付随するプレートトレーサリー円を彷彿とさせます。新旧カンパニョッロ製品の至る所に、優雅なデザイン的あそびを感じます。イタリア製の金属製品にはかなりの確率で見られる現象ではないかなと思うのですが、どうでしょうか。

ヨーロッパ人なら生まれたときから空気のようにそこに存在している教会とそのデザインは、ヨーロッパ人の工業デザイナーの意識の深層に沈潜しているんじゃないだろうかと思います。

シマノ製品にはそのようなセンスは絶無です。装飾など不要、機能がデザインを自ずと形成するのだ、というわけでしょうか、それともガンダム世代の方々が設計しているからでしょうか。