2024/01/21

■ まなぶ - 楽しむって...


孔子先生はおっしゃたんだそうです;「あることについて、『知っている人』は、そのことを『好んでいる人』には及ばないんだけれど、その人だって、そのことを『楽しんでいる人』にはかなわないな」(論語「雍也第六」)

 この先生のおことばもここ50年以上もアタマの中から離れないんですが、20代に病気で6年から8年ほど寝て暮らしてしまい、やっぱり毎日アタマを巡っていました。私が何か学んだりお勉強したりする知識の習得に言えるだけでなくて、もしかして、たとえばあなたが長年なさっているお仕事にも、いや、ヒトの人生そのものにもあてはまるのかもしれないと、ずっと思ってきたような気がします。

 お仕事をするとします;

  ① イマこのお仕事をしている人はみんな、「知之者」。生きるために、稼ぐために、まずはしょうがない。できればしたくないが、しなきゃ。ま、給料はもらえるし、休みは法律で定められた程度は何とかあるし、仕事はワンパターンでなれてきたってのもあるし、ま、仕事は仕事、プライベートはプライベート、遊びは遊びと割り切って、続けるかぁ...な~んて、お役所なお仕事の方は、「知之者」。いいではないですか、仕事に慣れ、この作業はこう、と、その道の専門家になったんだし、それで誰も何も不満を言う余地はないです。

  ② イマこの仕事さ、自分でちょっとつっこんで調べてみたんだけど、イヤそこまでヤラなくていいっちゃぁいいんだけど、でも、深く知ると、もしかして、奥が深いのかナ...。こんど、いつかまた仕事時間中に、すこしヒマな時間帯があったら、そのときもうちょっと調べてみようかナ...と思う人。こういう人は「好之者」。でも、ま、ひとまず今日は切り上げて帰宅しなきゃ。

  ②-appendix 帰宅した、または休日だ、しかし、メシを食いながら、寝っ転がりながら、 イマやっているこの仕事について、もうちょっと調べてみる...。前任者の処理方法、参考文献も、職場から借り出して来た、無断だが...。疑問点があったので、同僚の自宅にイマ電話したら、たいへんに煙たがられた...。けしからんヤツだ。それにしても、この長年の先例はおかしくないだろうか、上司に改善を求めようか、いや、あの価値観ステレオタイプのマイホーム上司では...。でも、ここまで考えたんだし、ちょっと改善案を、今見ているこの資料を参考につけて、レポートふうに下書きしてあたためてみようかなぁ...あ、もう夜中の0時なのか...。ちょっと眠ってシャワー浴びて5:30の始発で出勤して...着けばちょうど守衛さんが入れてくれる時間かな...。そんなヤツは「樂之者」...。

 お勉強をするとします;

  ①「日本史」。この科目を大学入試共通テストに選択して勉強している人は、みんな「知之者」。だって、地理は寝ちゃうし、倫理はくどいし、政経は息苦しいし、世界史はカタカナ覚えられないし、他に社会科の受験科目がないことだし、しょ~がないよなぁ。漢字がたいへんだけどとにかく詰め込む。学校から帰宅したら、日本史なんかもう考えたくないボクだって、ちゃんと「知之者」。

  ② 日本史って、学校の授業を離れて、自分で勉強してみたら、ちょっとおもしろいのかも...と思うキミは「好之者」。

  ②-appendix メシを食いながら、寝っ転がりながら、日本史に関連した書籍を学校の図書室と市の図書館から借りてきて読む。次に読む者の参考のために激しく書き込みをしてあげる(...あ、あのぉ...)。中央公論社文庫『日本の歴史』全26巻を聖書とあがめ、一言一句記憶して即座に引用でき、他方で、悪の異端説として井沢元彦『逆説の日本史』全18巻を読んで激しく憤慨し、学校の休み時間には遣唐使と遣渤海使の航路変更の変遷の背後の大陸情勢について友人と口角泡を飛ばして議論し、定期刊行物NHK出版『歴史への招待』の最新号をネットで予約注文し、待ちに待ったあげく受け取るや否や活字のゴミまで精読し、NHK教育TV『歴史探訪』の○月×日の放映のナレーション中に史実に反する表現があると渋谷のNHKセンターに電話で抗議し、寝てもさめても日本史な、日本史がおもしろくてタマらんヤツがいるとすれば、ソイツは「樂之者」...。

  受験も迫る秋くらいになると、そんな日陰に生態していたヤツが露顕するようです。希少種の同類生物以外は近づくことが不可能な危なげなオーラを放ち、同じ教室内で暮らしていても一般民間人から隔絶された存在となっています。物理、英語、音楽などにも同類の発生がしばしば観測されやすいようです。特に、自主性を重んじる培養環境が整っている県内の旧制高校の歴史を持つトップ校などは、旺盛に繁殖し、容易に観察可能です。

 いずれにせよ、孔子先生すらも「かなわんな、こんなヤツらには」とおっしゃっているとおりです。

 多くの人は「知之者」になる以前の段階で苦しみもがいている。でも、そのことばっかり考えているうちに気づく次の段階が来ることでしょう;どんな分野でも、きっと、無限のおもしろさが遥か奥の方まで広がっているんじゃないだろうか。あらゆるドレもが、仕事や受験の実用道具からさらに進んだところに、無我の境地に遊べる楽しさがあるのではないでしょうか。