■ 食事の話。「袋詰めされている食品から、健常な18歳以上の日本人に必要な1日のカロリーや脂質の半分以上にあたる1500kcalを、毎日、摂取する生活」をしていますか? 私は違います。あなたは?
■ ポテトチップスなどの「袋菓子」なら受験生の年頃の18歳ではありうる話ですが、そうであっても、カルビーのポテトチップスは1袋60gで330kcal程度。それを「毎日」...。しかも「1500kcal」って、たぶん間違っている生活では? だとして、今回登場の太郎君と花子さんの生活って、何か異常な事態ではないでしょうか?
■ 大学入試共通テスト試行調査問題で、異常な世界の人たちの生活を垣間見て楽しんでみましょう(なお、[ ]のオ以降は、カタカナ1文字に、解答となるアラビア数字1字が入ります)。
※ 奇想天外な豊かな想像力に満ちた出題者に敬意を表します。
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100gずつ袋詰めされている食品AとBがある。
l袋あたりのエネルギーは食品Aが200kcal, 食品Bが300kcalであり,
1袋あたりの脂質の含有量は食品Aが4g, 食品Bが2gである。
(1)
太郎さんは,食品AとBを食べるにあたり,
エネルギーは1500kcal以下に, 脂質は16g以下に
抑えたいと考えている。
食べる量(g)の合計が最も多くなるのは,
食品AとBをどのような量の組合せで食べるときかを調べよう。
ただし, 一方のみを食べる場合も含めて考えるものとする。
i) 食品Aをx袋分,食品Bをy袋分だけ食べるとする。
このとき, x, yは次の条件①,②を満たす必要がある。
摂取するエネルギー量についての条件 [ ア ]………①
摂取する脂質の量についての条件 [ イ ]………②
[ ア ], [ イ ]に当てはまる式を, 次の各解答群のうちから一つずつ選べ。
[ ア ]の解答群
200x+300y≤1500 200x+300y≥1500
300x+200y≤1500 300x+200y≥1500
[ イ ]の解答群
2x+4y≤16 2x+4y≥16
4x+2y≤16 4x+2y≥16
ii) x, yの値と条件①,②の関係について正しいものを, 以下から二つ選べ。 [ ウ ], [ エ ]
(x, y)=(0, 5)は条件①を満たさないが, 条件②は満たす。
(x, y)=(5, 0)は条件①を満たすが, 条件②は満たさない。
(x, y)=(4, 1)は条件①も条件②も満たさない。
(x, y)=(3, 2)は条件①と条件②をともに満たす。
iii) 条件①,②をともに満たす(x, y)について,
食品AとBを食べる量の合計の最大値を二つの場合で考えてみよう。
食品A, Bがl袋を小分けにして食べられるような食品のとき,
すなわちx, yのとり得る値が実数の場合,
食べる量の合計の最大値は
[ オカキ ]g
である。
このときの(x, y)の組は,
(x,y)=([ ク ]/[ ケ ] , ([ コ ])/([ サ ]))
である。
次に, 食品A, Bがl袋を小分けにして食べられないような食品のとき,
すなわちx, yのとり得る値が整数の場合,
食べる量の合計の最大値は
[ シスセ ]g
である。
このときの(x, y)の組は
[ ソ ]通り
ある。
(2)
花子さんは,食品AとBを合計600g以上食べて,
エネルギーは1500kcal以下にしたい。
脂質を最も少なくできるのは,
食品A, Bがl袋を小分けにして食べられない食品の場合,
Aを[ タ ]袋,
Bを[ チ ]袋
食べるときで,
そのときの脂質は
[ ツテ ]g
である。
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■ いったいどんな食品なんだろうと思いつつ、読み進むにつれてだんだん気持ちが悪くなってきたのですが、こらえて解いてみましょう。
■ カロリーの条件は、200x+300yを1500kcal以下に①し、脂質は、4x+2yを16g以下に②すればよく、xとyにii)の座標の選択肢の組合せを丹念にあてはめていけば、何とか暗算か軽いメモで行けそうです。
■ iii)の、食べる量ですが、袋を小分けできるなら、上の連立不等式のxとyは実数ですが、袋を小分けできないなら、xとyは整数でなくちゃだめですネ。
■ ここで、x+yを組み合わせて食う合計量を、いったんkとおくのが、最大のポイントでしょうか。x+y=kならば、変形して、y = -x+k(③)。これって、傾き-1でy切片はkの直線の式です。
■ ①と②を、どちらも “y = …”の一次関数式にして、xy平面に書き出します(グラフはせっかく描くなら、できるだけデカく描こう!)。不等式なので、直線と原点に囲まれる直角三角形が有効なエリアですが、二直線に交点があるので、算出しておきます。分数座標でした。
■ ①と②の両方の条件を満たすのは、重複したエリアです。この平面に、y = -x+kを書き込み、この、傾き-1の直線が有効なエリア内を通過する内で、切片kの値が最も高くなる時が、もっともたくさん食える場合ってことですネ。するとそのときの直線③は、交点座標を通過するってわけで...。
■ 食える量は、x+y = k より、100(x+y) = 100kだから、xとyとに、有効領域と直線の共有点のうちただ1点に定まった最高地点=交点の座標を代入して100g倍すれば、575g食えるんだと、結論が出ました。
■ 575gは、どういう形状の物質が入っているんだろうな!? これ575gひたすら食ってうまいのかな...。
■ この手法は、「工業簿記」の「原価計算」でおなじみ...な人は、高校の普通科にはおらず、商業高校・工業高校など実業系高校で簿記2級を目指す生徒さんでしょうか。原価計算の一分野、「線形計画」の基本テクでした。でもそこの生徒さんでも、まさか太郎君の食生活にこのテクを使うなんて思いもよらないところです。
■ 袋が小分けできないとすれば、xとyが整数でなくちゃだめなので、重複する有効な範囲内で最大となる格子点を丹念に拾えばいいですが、その結果、満たす座標は、和が5になる6つの組合せのうち、領域内の5つに限られます。
■ 花子さんの食生活の場合、太郎君より多い600gを食い、カロリーは同じ1500kcal以下だが、脂質を抑えたいんだって。も~、わがままだなぁ。
■ でも2人は、非常に特殊な生活をしているところなんですね、きっと。イマ、大気圏外の有人宇宙ステーションにてミッション実行中にちがいありません。
■ なんでこんな特殊な食生活の計算を、18歳の50万人がいっせいに計算してあげなきゃダメなんだろうか...? 庶民にとっては、りっぱな象牙でできたタワーにお住いの出題者の方々の発想は、いっけんバカげているように見えて、実はほんとうにばかげている 実は深遠な見地に発するものであると思うと、胃が気持ち悪くなってうがいしたくなる こころを洗われる思いがいたします。