2023/10/31

■ まなぶ - 中学生が理解する経済原理 - 青森県立高校入試 2011(H23) - 社会第6問 (公民)


私の地元の県立高校の入試問題を読んで楽しんでみます。なお、私は中高生のいる家族でもなく学校関係者や業界関係者でもありません。末端の庶民が外野席から、教育上あまりよろしくない背景を、お気楽に連想して、眺めてみます。

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下の文章は、生徒が職場訪問で学んだことを発表したものの一部である。次の(1)~(6)に答えなさい。(13点)

ひろしくん:私は青果市場を訪問しました。青果市場では、せりが行われていて、需要量と供給量の関係で価格が決定されることを知りました。

みかさん:私はおもちゃ工場を訪問しました。消費者が製品の欠陥によってけがなどをしないように、とても気をつかっているということでした。

ゆみさん:私は税務署を訪問しました。租税には所得税などさまざまな種類があり、景気によって税収が左右されることなどを教えていただきました。また、国民の義務として納税は大切であるということも学びました。

ただしくん:私は銀行を訪問しました。お正月にもらったお年玉を、私は銀行に預けていますが、今回の訪問で、預けられたお金がいろいろなことに使われていることがわかりました。

みなさん、古典的近代経済理論と理想的民主主義社会が機能していることを信じた、高度経済成長期の中学生のような、素直で希望に満ちた生徒さんですね。いっぽう、その半世紀後の現在の中学生のメンタリティの現実に合うように、少し補ってみましょう;

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下の文章は、生徒が職場訪問で学んだことを発表したものの一部である。

せましくん:私は青果市場を訪問しました。青果市場では、せりが行われていて、需要量と供給量の関係で価格が決定されることを教えてもらいました。取引自体は確かに、神の見えざる手によって均衡価格が予定調和的に決定される古典的市場理論の理想を目の当たりにした気も少ししましたが、しかし、当の青果市場のような、わが国における地方卸売市場の経営者の9割以上は、閉鎖的同族会社であり、特定家族が世襲的に利益を独占している現実もあることから、理想的側面だけを中学生に見せることには、疑問を感じました。

かみさん:私はおもちゃ工場を訪問しました。消費者が製品の欠陥によってけがなどをしないように、とても気をつかっているということでした。具体的には、取扱説明書と警告文言など念入りに作って添付しないと、まぬけな消費者と強欲な弁護士に製造物責任訴訟を起こされて巨額の損害賠償を請求されるアメリカのような社会制度になりつつあると言いたかったのだと意を酌んであげました。が、私が先日買ったi-Phoneには説明書など一枚も入っていませんでした。使い方は自分でググれ、当社ではあなたの使用により日本国内で生じたいかなる損害についてもいっさいの責任を負わないものとする、という対照的な現実に気づきました。弱小な国内製造業者は、法制や税制でがんじがらめにされて豊かなお役人やわがままな消費者の食い物にされるけれど、GAFAなどの巨大企業なら、ショボい国の法的責任などすべて食い破って楽々逃げ切るヒエラルキカルなグローバル社会であることも実感しました。

みゆさん:私は国民から税金を取り立てる税務署を訪問しました。租税立法には、累進課税の美しい原則など踏みにじる逆進的な効果満載の消費税などさまざまなテクニックがあることを想起しました。また、国民の義務として納税は大切だと強調していたようでした。お父さんに、今日は税務署に職場訪問に行ってそう学んだよと言ったら、お父さんは、取られてムダ遣いされる国民の身にもなってもらいたいな、と、ポツリとつぶやいていました。しぼり取られる一方の庶民の哀愁を実感した日でした。

わろし君:私は銀行を訪問しました。お年玉にもらった莫大な金額を、私は銀行に預けていますが、今回の訪問で、銀行は、預金者の所有にかかる金銭を断りもなくいろいろなことに使っておきながら、その利益は銀行が独占していることが判明しました。銀行にお金を預けたら、銀行では大事に保管してくれているものだと、小学校以来信じていたのですが、信頼が崩壊し、またひとつ、おとなの事情を垣間見る思いのした一日でした。