2023/05/01

■なおす - 初めてのクラシックシェービング

クラシック・シェービングという単語は一般的じゃないでしょう。

「両刃カミソリ」を使ったひげそり方法のことを指すことにします。

シックやジレットの「4枚刃」「5枚刃」などのカートリッジ式プラスチック製品とは違います。ところでこの種の製品のことを、いま仮に「n枚刃」と呼びましょう。

ただし、{ n |  2 ≤ n ≤ 5 } ∩ { n | nは自然数}とする。...なんちゃって

「n枚刃」の特徴は:

1) 本体と替刃のセット1パックをただ同然で売り、高額な替刃を繰り返し購入させる

2) プラスチックの使い捨てに依拠する

この発想は、経済財のうち物質資源は無限に存在するという古典的経済原論を前提としていると思います。これが20世紀前半のアメリカで膨満した資本主義の結果、大きな成功例となった事例だと思います。今や全人類を客として大きな収益を上げるシステムとなっています。

「替刃商法」とも呼ばれます。

ジレットの創始者、またその師の「ビンの使い捨て王冠の発明者」に着想のプライオリティーがあるようです。

Microsoft WindowsとMac OS、CanonとEpsonのプリンタ、SchickとGilletteの「n枚刃」は、似た発想で世界を席捲し、人類は隷属しています。

「n枚刃」製品は、「1週間ごとに替刃カートリッジ1個を交換」と推奨されていますが、本来の切れ味は実質的に2,3日の寿命です(この辺はもちろん個人差で)。替刃の価格は、代表的な製品「Schick Hydro5 Premium - 8個入り」で、現時点で3,110円(ビックカメラ、コジマとも同額)。1個あたり400円弱ですので毎週1個とすれば、1年52週なら2万円あまりでしょうか。

新品交換した日はよく剃れるのですが、その後は剃り味がガックリ劣り、お金と切れ味を妥協して自分に言い聞かせながら鈍い刃物を何度も皮膚にあてる…。生涯にわたりこの卑屈さは続きます。

それがイヤで、この際もう奮発して、ン万円の「電動シェーバー」を!…。

これも、切れ味は、1週間程度でもはや新品とは言いづらくなります。その後その切れない刃を2年も5年も10年も、手入れもせず交換もせず動力を用いて肌に強く押し付ける・周囲にはチョットあれな音・積年の異臭・朝ワイシャツを着てから剃るとワイシャツ上半身にまんべんなく微小な黒いつぶつぶ状の…いずれにも気づかずご満悦なのは、積年のドライシェーブで頬が青々とした本人のみ…、いや、もうやめましょう。ごめんなさい。身をもってした経験でした。

「ほかにどんな手が?」と自分なりに考えた結果が、クラシック・シェービングでした。

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準備するのは、1) 替刃、2) 両刃カミソリ本体(ホルダーという)。余裕があれば、3) シェービングソープ、4) ソープブラシ。

「クラシック・シェービングなら使い捨てじゃないというのか? 薄いカミソリの替刃こそまさに頻繁に使い捨て…」という気もしました。が、石油製品とは異なり、この刃は鉄のみから成る製品で、現代の人類社会では完全にリサイクル製品で、かつ使用後にリサイクル可能です。ホルダーは生涯使える(どころか戦前のアメリカ製がふつうの実用品として1,000円台からe-bayで流通している)ので、他に使い捨てるパーツは無い。商品としての替刃は、薄い紙包装で売られているのが多数派です。

費用的には:

1) 両刃替刃が、1枚あたり5円(上海/克労得製)~100円(日本/フェザー製)。この価格帯に世界数カ国(欧米露印埃)の製品数十種類がひしめいています。1枚10円~30円が世界的に販売最頻値でしょうか。

個人のウェブログを見ると、替刃を毎日交換する人もいるようですし、1枚の替刃を1週間、1か月と使う人もいるようです。「n枚刃」と同様、やはりモード値は3回前後ではないかなと思います(特にデータはありません。個人の実感です)。

2) ホルダーは、110円(ダイソーの韓国製)~上限なし(博物館級)ですが、日本の店舗や国内通販で買えるのは、事実上、ダイソー販売の韓国デルコ製110円か、薬局で販売の大阪フェザー製「ポピュラー」1,000円の2種のみ。個人的にはどちらもお勧めできないです。海外通販でのボリュームゾーンは3,000円~20,000円といったところでしょうか。

3) & 4) シェービングソープやブラシは、石けんや普通のスプレー式フォームでも代用可能です。ただ、ソープやブラシを一度でも使えば、石けんやスプレーはすぐ不満になるでしょう。手に入れるとしたら、イタリア製・イギリス製・アメリカ製が定番で高級品ですが、この数年でアジア製も侮れないレベルです。あ、そうそう、amazonでは上記の外国製ソープが売られていますので入手可能です。転売品で、たっっぷりと利益が上乗せされています。値段さえ知らなければ、使って幸福になれます。あたかも、宗教団体からツボを購入して、「このツボのおかげで、無病息災一家平和に暮らすことができております(^^)」と感謝して日々を平穏に送ることができる点で、win-winな取引関係となるアレゴリーと同断です。ご同慶の至りです...。

他方で、信仰心に悖る私やあなたにとっては、どの1品も、日本で入手するにはちょっと気合いが必要です…エッ!?

…少なくとも、歩いて行けるコンビニとかでは手に入らないでしょう。

海外通販が前提ですので、時間と送料と外国為替のもどかしさへの寛容が必要だと思います。知識を得て、決意して、クレジットカードを用意してPCに向かいましょう。

ただ、1)と2)だけで始められるので、初期費用は3,000円~1万円で、生涯満足できる製品が手に入るでしょう。

親しみやすくてすばらしい日本語の動画説明がニコニコ動画にあります。「The World of Traditional Shaving 第1回「古き良き髭剃りへのいざない(作者;Shaverさん)」という動画です。また、日本の個人のウェブサイトもかなり充実してきました。「Shave and Grind (作者;スズキω)))さんの『クラシック・シェービング事始め -準備編-』」が、迷う気持ちを後押ししてくれる口調で、実践が近づくと思います。

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何十年も前から見たことはあるのですが、何だか古めかしい金属のカタマリで刃がむき出しで、野蛮な印象でしたし、いざ実践しようとした最初は、そのヴィジュアルに恐怖感。

ネットで1年以上かけて学んで、意を決して実践しました。

もう何年も前になる「初めての日」のことは、今でもハッキリ覚えています。

周到に準備し日程と手順を組みました。(ひげ剃るだけなのに、臆病すぎて笑えます)

蒸しタオルを何枚も発泡スチロール製の箱に用意し、寒い状態でのシェービングを避けて7月中旬の晴れた真昼を選び、シャワールームを密閉してじゅうぶんに温めて湯気まみれにしました。壁と手持ちの鏡には入念に曇り止めを塗布、さらに…、いや、臆病者の準備の話はこのくらいにして。

結果、びっくり仰天。

最初、震える手で顔におそるおそる刃をあてて、すぐその箇所を触ると、異様にトロリとする…石鹸? いやもしかして血だらけ? と思ったのですが、手に血はついていない。曇る鏡を必死に見ながらひとまず1クール目の順剃りを慎重に。触るとツルリを通り越してヌラリ。手も頬も互いの触感がないくらい…。2クール目の逆剃りをいっそう慎重にあて、「初心者は深追いするな」との先人の教え通り、ひとまず終了。1時間以上かかりました…。

着替えて頬に触ると!異常にスベスベします。こんな経験はありません。もともと頬に髭なんか生えたことはなかったのだ、という感触でした。ゆでたてですぐきれいにむけたゆで卵のような…。剃り残しはあるけれど、今日は後悔しないことに。

今はシェービングだけなら20分程度。自分の流儀ですが、シャワーを浴びて温まった際にシェービングをします。

以上をまとめると;

「ひげそり」は、何十年もの間、卑屈な気持ちで重い気分を引きずったやむを得ないルーティーンでした。

今では、「シェービング」のひとときが、生活の大きな楽しみになっています。

「n枚刃」「電動」に戻るのは論外です。

こんなに気に入った理由としては、「画期的に良く剃れる」のにさらに加えて、

お気に入りの、1) 替刃、2) ホルダー、3) ソープ、4) ブラシ、がいちいちそろっているから、というのも大きいです。

シャワー&シェービングの1時間の間じゅう、漂う良い香りに現実を離脱し、清潔にでき、気持ちもシャッキリと切り替わります。

「趣味」「沼」の世界ということなのでしょう。ルーティーンワークが、待ち遠しい趣味になるなんて、ほんとうにうれしいです。

というわけで、私個人の小さな人生において稀な、価値観のコペルニクス的転換を経験したのでした。